事業性評価はなぜ難しいか
実務がついていけるのか
事業性評価。
ブームの様相を呈しているほど、金融業界において盛んに叫ばれている。
一般のメディアですら騒がれているほどだ。
類書もここ一年で多数出版されている。
様々な立場の者が思考錯誤しているが、きちんと実現するには本当にハードルが高いと思っている。
お題目としての素晴らしさに異議を挟むものはあまりいないだろうが、実務がついていけるかどうかが問題だろう。
個人的な予想では、事業性評価シートなるものを作ってお茶を濁すなど、やはり形だけ整えようとする金融機関が続出し、その結果ある程度淘汰されていくのだろうと思う。
では何がそんなに難しいのだろうか。
性質の問題
最大の理由は、事業性評価の具体的な中身には明確な答えがないということだろう。
金融検査マニュアルと対比する。
金検マニュアルではどのように債権を評価するか、事細かに規定されていた。
その結果、検査する側も銀行側も人による判断の違いというものがほとんどなくなった。
一方、事業性評価ではどうか。
当然、お作法としての手順はある。
ビジネスモデル俯瞰図を作ったりとか、SWOT分析をしたりとかである。
これらの項目をマニュアルを見ながら形式的に作成することはそれほど難しくない。
しかし、事業性とは言い換えれば収益性ということであり、本来の意味で事業性を評価することとは、この会社や事業が収益を生むことができるか否かを判断することである。
当然この判断を高い精度を持ってすることは容易ではない。
それをするには画一的な方法などあり得ないのだ。
ある意味、それは経営の疑似体験のようなものなのだから。
事業性評価に関する書籍で事例による説明が多いのはこのためである。
各社ごとに事業性評価の中身が異なるから、事例をもって説明せざるを得ないのだ。
費用対効果の問題
次の問題は収益性の問題である。
先述したように、事業性評価は答えがないため、何をどこまで調べて評価するかという作業量に直結する点について極めて主観的である。例えば、自行内にある情報のみで判断を下すのか、取引先までヒアリングを行うのか、その判断は属人的とならざるを得ない。つまり、人によって異なるという非効率がある。
その上、事業性、つまり収益性を真の意味で把握しようと思ったら言うまでもなく膨大な情報を調べることになる。
手間も非常に大きなものとなるのだ。
そして、このように手間をかけて得られる金融機関の収益はどのくらいなのだろうか。
この手間に見合うだけの金利収入を得ることが出来るのだろうか。
現時点では、事業性評価融資はビジネスモデルとしてハードルが高いと思料する。
人の問題
そして、最後は人の問題である。
事業性評価の主役は、本部の審査部よりも会社に一番近い支店の担当者と思われるが、事業性評価に必要な能力を持っている人材がどれほどいるだろうか。
業界の知識や財務会計など、本を読めば得られるような知識はそこまで障害とならない。危惧するのは、ヒアリングする力が足りないのではないかということ。
その業界の平均的な会社、ということでなく、世に一つしかない担当先の会社の事業をきちんと理解しようとすると、経営者をはじめとする社内外の人間にヒアリングする必要がある。しかし、ある時期以降入行の銀行員は企業に訪問して社長と話すということに慣れていない。そのため、事業性評価に最も必要だと思われるヒアリング力が身についてない可能性があるのだ。これは、知ればすぐに身につけられる知識と違って、素養の問題なので身につけるには非常に時間がかかる。
どうすればよいか
事業性評価が難しい点をいくつか挙げたが、しかしそれでも事業を見て融資するという今の方向は正しい方向だと思っている。
何とか根付いてほしいと願っている。
ではどうすればよいか。
この答えは容易ではない。
本コラムでも継続的に考えていきたい。
現状期待されている手法は、短期継続融資やABL(Asset Based Lending)である。
これが期待できるかも知れないと思う点は、
・どちらも以前金融機関で実務として定着していた方法であり、すでに実績がある
・融資の性質から、業務の一部に事業の理解が強制的に求められる
ことである。
当面の間、興味を持って注視したい。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。