銀行員として、会社のために何ができるのか
無力感を感じている銀行員が多い
職業柄、現役の金融機関の方や金融機関出身者の方と接する機会が多くあります。そこで感じるのは、銀行員は結局顧客である会社のために何もできないのではないかという無力感を感じておられる方が非常に多いということです。こう思われる背景としては、会社の事業に対する理解不足から生まれる無力感や、不毛な金利競争、金融商品の押し付け営業等による徒労感があると思います。そして、事業への理解不足の原因としては、保証協会による100%保証に頼る融資や、金検マニュアルによる画一的な債務者評価などの構造的要因があると思われます。
そのため、一行員として無力感を感じたとしても何もできない状況なのでしょう。
会社は何を求めているか
しかし、銀行全体ではなく、一銀行員の立場から会社のために出来ることは、実はあります。そもそも、会社が何を求めているかという点について、会社と銀行側において齟齬が生じていることが大規模なアンケートによって判明しています。このアンケートは金融庁によってなされたものですが、これによると銀行側は低い金利を会社が求めていると理解しています。しかし、実際には金利の低さはそれほど重要ではなく、会社が一番銀行員に求めているのは、自社の事業に対する理解なのです。この間には約三倍の開きがあります。このため、銀行員としてはまず会社の事業を理解することに努めるべきなのです。
ソフトスキルが大事
さて、これだけだと最近流行りの事業性評価をしましょう、という話だけで終わってしまいます。でもここでは、もう一つとても大切なことをお伝えしたいと思います。それは、ソフトスキルが欠かせないということです。具体的な内容としては、情報をうまく引き出すヒアリング能力であったり、相手の立場や感情を考慮しながらこちらの言いたいことを伝えるといった内容です。結局事業を理解するには正しい情報を得られなければならず、そのためには信頼関係がその前提となる。信頼関係を得るためには上述のソフトスキルが必要という理由です。そのため、事業の理解とソフトスキルは両輪なのです。
どうすれば良いか
事業理解とソフトスキルの獲得が大切なのはご理解いただけたと思います。では、どのように身につければよいのでしょうか。簡単な方法として、会社との接触回数を増やすことがあります。まず、接触回数が増えることの単純な効果として、心理的距離が近くなるというものがあります。距離が近くなればある程度は相手に自然と興味を持つでしょうから、意識して情報を取りに行くための心理的ハードルが低くなります。また、一度接触すれば用件だけでなく周辺情報の話も多少はするでしょうから、断片的な情報であっても会社を理解するためのピースは増えることになります。言い換えると、意識しないでも自然と事業への理解が深まるということです。
専門知識で勝負しようと思わない
逆に、陥りがちなミスとしては、会社の事業にかかわる専門的な知識で勝負しようとしないことです。事業性評価が盛んに叫ばれている昨今、高度な業界の専門知識を知るべきだ、とする論も多少見かけます。しかし、金融に詳しい社長の知識が銀行員の金融実務に関する知識に及ばないのと同様、事業や業界について多少かじった程度の銀行員が、社長に対して教えてあげようという上から目線のスタンスで接したとしても、内心馬鹿にされるだけです(社長の立場上、決して表には出さないでしょう)。そのため、社長の長年の業界に対する知見に対して敬意を抱いて接するべきなのです。
基本ができてから飛び道具
商談会やマッチング、事業承継やM&Aなどのスポット的コンサルティングはこの後です。これまで述べてきたように、まずは真の信頼関係を築くことが最優先です。次に、事業の理解をすることです。これらは同時並行で進むのが通常です。ここまでできれば、資金ニーズは自ずと銀行員に伝わるので、特に意識しなくても融資機会を得られると思います。また、この場合の融資は金利によって他行に取られる、という不安は発生しないはずです。そのような基準で銀行を選ぶ段階をとうに過ぎているので。さらに、通常は融資以外の相談もされるはずです。この、融資以外の相談をされる段階においてはじめて、本業支援のイベントを自信を持って提案してよいでしょう。信頼関係が構築されていない、初めの段階からスポットのコンサルティングを提案しても、事故の元です。
基本を固めてから飛び道具。
この順番を忘れないでください。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。