金融仲介機能のベンチマーク⑤~条件変更先の多くは計画作成すらされていないという事実~
条件変更先のうち、見込みのある企業のみ計画を作成している
金融仲介機能のベンチマーク(※1)について、前回までのコラムでは選択ベンチマークの掲載の有無により各金融機関がどの分野を重視しているのかについて説明してきました。今回からは、掲載の有無ではなく、掲載の内容についても見ていこうと思います。
今回は、事業再生の分野です。
共通ベンチマークのうち、事業再生に関係する指標として、
2. 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
というものがあります。これは共通ベンチマークなので、約95%の金融機関が掲載しています。このベンチマークは具体的には、条件変更先数、うち好調先数・順調先数・不調先数・計画なし先数が示されることが一般的です。ここで、多くの金融機関がこの項目の個所で発しているメッセージは、計画策定先のうち、多くの取引先が「計画比80%以上」の順調先以上であるというものです。確かに、ほとんどの金融機関において計画策定先のうち7割以上が順調先以上です。しかし、分母を「計画策定先数」ではなく、計画なし先数も含めた「条件変更先」にするとどうでしょう。そうすると順調先以上の比率が一気に下がり、多くの金融機関で「条件変更先に占める順調先以上の割合」は1~3割にとどまります。
このことから何が読み取れるかというと、計画を策定しても改善が困難である可能性が高い取引先については計画作成すらしていないということです。言い換えれば、手の施しようがないと諦めている可能性が高いのではないかということです。実際、計画を作成している不調先数と計画なし先数をひとくくりに不調先数として表現する金融機関もかなりの数に上ります。
一定数の企業は改善の余地があるのではないか
さて、ではこの計画未策定先ですが、本当に何もできないのでしょうか。
ここで、先ほどの不調先数を全取引先数に占める割合でみていくと、ほとんどが一けた台前半から10%程度までに収まっています。一方で、ある研究によれば、日本の総企業数のうち、2%程度は事業再生や円滑な廃業が困難であるとされています。ということは、単純に当てはめると、この数値の差はそのまま事業再生や円滑な廃業が可能な取引先を示唆しているのではないかということです。言い換えると、この部分についてが金融機関における改善の課題となるのではないかと考えています。
改善の方向性は再生能力強化と廃業支援
では、具体的にどのような方向性での改善が考えられるでしょうか。
一つは、金融機関における事業再生能力を高めるという方向です。ベンチマークとの関連でいうなら、計画策定先数を増やすということです。これには必ずしも自前で再生させる必要はなく、外部の専門家を積極的に利用するなど様々な方法が考えられます。
もう一つは、廃業に関する支援も充実させることです。現在、事業再生に関する情報提供や施策は充実していますが、廃業に関しては必ずしも十分とは言えません。実際、選択ベンチマークにおいても
22. 転廃業支援先数
があるのみです。しかし、今後円滑な廃業は日本全体の情勢からも非常に重要なテーマになるでしょう。
今はまだこの分野を重視している金融機関はほぼ見当たりません。
逆にいえば、他行と差別化する絶好の項目といえるのではないでしょうか。
事業者にとっての幸福は必ずしも事業再生に限るわけではないでしょう。
現状ずるずると苦しい思いをしながら経営を続けるよりも、速やかに廃業をした方が幸福な事業者も数多くいると思います。地方経済を担う地域金融機関としては、これらの事業者を積極的に支援してほしいものです。
(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(注)本コラムにおける集計結果は、2017年5月17日現在公表されている情報に基づいて我々が独自に集計したものに基づいています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。