金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第9弾:福井県編~
1.福井県の地銀
福井県には第一地銀である福井銀行と第二地銀である福邦銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。他県と同様、第一地銀が第二地銀を規模面で圧倒しています。
福井銀行 | 対福邦銀行比 | 福邦銀行 | |
経常収益(H29.3) | 36,148百万円 | 4.0 | 8,936百万円 |
業務純益(H29.3) | 4,500百万円 | 8.9 | 506百万円 |
経常損益(H29.3) | 6,167百万円 | 6.1 | 1,009百万円 |
自資比(国内基,H29.3) | 9.4% | 1.1 | 8.6% |
従業員(直近) | 1,385名 | 2.7 | 504名 |
県内貸出シェア(H28.3) | 39% | 不明 |
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)福井銀行
共通ベンチマークは五つすべて掲載しています。
選択ベンチマークは16項目です。「地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数等」などオーソドックスな項目が多いですが、他行との違いを敢えて挙げるとすれば、本業支援関連の項目が多いことでしょうか。「本業(企業価値の向上)支援先数等」など4項目あります。
数値面で特筆すべき点は、事業性評価融資がH29.3期にかけて大きく伸びた点です。事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額の割合がそれぞれ3%→36%、22%→44%と大幅に上昇しています。
独自ベンチマークは「繊維産業への金融支援の状況(繊維産業の融資残高、融資先数)」など2項目あります。このような地域特性を見極めたベンチマークの設定は非常に好感が持てます。
(2)福邦銀行
共通ベンチマークは五つすべて掲載しています。
選択ベンチマークは「事業承継支援先数」など5項目です。
数、内容面ともに寂しいですね。
数値面で特徴的なのは、地域経済活性化支援機構(REVIC)の活用先数が第二地銀としては著しく多い点です。これは、通常REVICを活用する際は中小企業の事業再生を支援するスキームとして用いることが多いのですが、このような使い方ではなく「特定専門家派遣」といった使い方をしているため、件数が伸びたものと思われます。
独自ベンチマークは「法人営業マイスターの認定者数」です。行員によるコンサルタント能力の習得を重視している姿勢が分かります。
3.定性面の比較
福井銀行の中期経営計画(平成27年度~平成29年度)は「Create Chance Create Future」です。
資料では福井県が幸福度日本一である点をアピールしていたのですが、具体的な戦略には反映されていなかったようなのでもったいない印象です。また、地域別戦略を立てているのですが、他県のように県内の地域別戦略ではなく、もう少し広域の、具体的には隣接する石川・富山県や、都市圏の京阪地区・東京といった範囲で考えている点が面白いですね。
金融仲介機能のベンチマークと同計画の関連は明確ではありません。ベンチマーク説明資料の構成も説明の仕方もオーソドックスなものです。しかし、やはり独自ベンチマークである地元を代表する産業への金融支援の説明は目を引くものでした。
福邦銀行の経営強化計画(平成27年度~平成29年度)の構成はオーソドックスです。特徴的な点は、売上10億円以下の地元中小企業をコア顧客として、このゾーンに対する貸出増加を目標としている点です。
金融仲介機能のベンチマークとの関連は不明瞭です。
ベンチマークの説明においても、特段の定性情報はありません。
まとめです。
やはり地方特性を活かしたベンチマーク、例えばその地で主要な産業に関する独自ベンチマークを設定して定性的な情報を付加してアピールする方法というのは非常にわかりやすく、説得力に富むものでした。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)二行が共通して掲載している項目
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
21 事業承継支援先数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
(2)一行のみが掲載している項目
①福井銀行のみが掲載している項目
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
9 地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
15 メイン取引先のうち、経営改善提案を行っている先の割合
19 M&A支援先数
22 転廃業支援先数
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
独自ベンチマーク
1 繊維産業への金融支援の状況(繊維産業の融資残高、融資先数)
2眼鏡産業への金融支援の状況(眼鏡産業の融資残高、融資先数)
②福邦銀行のみが掲載している項目
選択ベンチマーク
16 創業支援先数(支援内容別)
独自ベンチマーク
1 「法人営業マイスター」の認定者数
(3)各行における金融仲介機能のベンチマーク
福井銀行(平成29年7月公表)
福邦銀行(平成29年7月公表)
(4)各行における中期経営計画
福井銀行(平成27年度~平成29年度)
福邦銀行(平成29年度~平成31年度)
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。