金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第35弾:東京都編~
目次
1.東京都の地銀
東京都は第一次産業比率が極めて低く、第三次産業比率が極めて高い点が特徴です。特に、卸売業や金融業、出版業などにおいては本社が東京に集中しています。
東京には第一地銀である東京都民銀行、第二地銀である八千代銀行、東日本銀行及び東京スター銀行があります。
このうち、東京都民銀行と八千代銀行は現在東京TYフィナンシャルグループに属していますが、同グループの新銀行東京も併せ平成30年5月に合併してきらぼし銀行となる予定です。
また、東日本銀行は横浜銀行とともにコンコルディア・フィナンシャルグループに属しています。
主要指標は下記表のとおりです。あまり規模の違いはありません。各行のシェアが少ないのは、東京においては大手銀行で76%を占めているからです。
東京都民銀行 | 対東京スター銀行比 | 八千代銀行 | 対東京スター銀行比 | 東日本銀行 | 対東京スター銀行比 | 東京スター銀行 | |
経常収益(H29.3) | 43,455百万円 | 0.6 | 35,601百万円 | 0.5 | 38,325百万円 | 0.5 | 70,929百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 7,319百万円 | 0.8 | 5,201百万円 | 0.5 | 9,719百万円 | ||
修正OHR(H29.3)*2 | 79.7% | – | 82.7% | – | 74.0% | – | 78.3% |
経常損益(H29.3) | 4,710百万円 | 0.3 | 4,240百万円 | 0.3 | 6,043百万円 | 0.4 | 15,166百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 6.9% | – | 9.2% | – | 7.5% | – | 10.0% |
従業員(直近) | 1,493 | 0.9 | 1,574 | 0.9 | 1,398 | 0.8 | 1,703 |
県内貸出シェア(H29.3) | 1% | 1% | 1% | 1% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%。TYFGは東京都民銀行と八千代銀行の単純平均。
*3 全行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。なお、八千代銀行は単体の数値がなかったため、連結での数値である。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。
また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)
(1)東京都民銀行及び八千代銀行(東京TYFG・きらぼし銀行)
東京都民銀行及び八千代銀行は単独で掲載しておらず、東京TYFGとして掲載しています。そのため、両行はまとめて説明することにします。
共通ベンチマークは4つ掲載しています。
数値面では、事業性評価融資の割合がやや低めです。先数と残高ベースで各6%、16%となっております(他行平均は各10%,20%程度)。
選択ベンチマークは11項目です。重要な項目をまんべんなく載せてあるものの、担保・保証に依存しない融資の項目についてはあった方がよいでしょう。
数値面では、メイン取引先の全取引先に占める割合が35%と若干低めです。他行は平均45%程度です。
独自ベンチマークは5項目です。うち、地方公共団体等との連携に関する項目が3つありますが、この方向性は地域貢献を図るうえで大変良い指標です。
(2)東日本銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、まずメイン先のうち経営指標が改善した先数の割合が80%と高めです。他行は7割に届かないことが多いです。また、創業件数も844件と多めです。全行の真ん中である中央値は300件程度です。
選択ベンチマークは8項目です。こちらも重要な分野はカバーされています。本業支援担当の支店や本部従業員に占める割合が比較的珍しいものです。
数値面では、この本業支援担当の全支店従業員数に占める割合が50%と高いです。掲載行は決して多くはないですが、現状最も高い数値です。一方で、このベンチマークを掲載するのであれば、本業支援に関する他のベンチマーク(先数など)についても併せて掲載すればよかったのではないでしょうか。
独自ベンチマークはありません。
(3)東京スター銀行
共通ベンチマークは2つ掲載しています。
数値面では事業性評価融資の割合が高いです。先数と残高ベースで各34%、72%です。
選択ベンチマークは2項目です。掲載されているM&A支援件数も事業承継支援件数も確かに大切な項目ですが、本業支援や担保・保証に依存しない融資についての項目など、重要なベンチマークはもっと載せてもよかったのではないでしょうか。
数値面では、事業承継支援件数の8件は少ない気がします。
独自ベンチマークは11項目あります。当行の重点分野が非常に良く分かる項目ばかりです。
3.定性面の比較
(1)東京都民銀行及び八千代銀行(東京TYFG・きらぼし銀行).
東京都民銀行及び八千代銀行は東京TYFGとして経営計画を策定しています。各行ごとにも融資や手数料ビジネスなどのテーマに基づいて施策を予定していますが、両行ともオーソドックスなものです。
金融仲介機能のベンチマークは具体的な取り組みとともに説明され、分かりやすいです。独自ベンチマークも効果的に設けられ、特に地方公共団体との連携を重視する姿勢が伝わってきます。地銀にとって地域経済の復活は大変重要なミッションであり、そのためには地元自治体との連携が欠かせません。そのため、このテーマを重視するのはどの地銀にとっても重要であるでしょう。
(2)東日本銀行
東日本銀行の経営計画はコンコルディア・フィナンシャルグループとして作成されています。基本戦略のうち「グループシナジーの早期実現による成長の加速」「地方創生をはじめとする地域の課題への主体的な関与」あたりが特徴的でしょうか。後者の具体的な内容は地域開発プロジェクトや地域産業の活性を支援するといったものです。
金融仲介機能のベンチマークの説明における特徴的な点は、資金需要への積極的な対応というテーマです。明確にベンチマークと位置付けているわけではないのですが、テーマに関連する各種実績値が詳しく掲載されており、重視している姿勢が伝わります。一方、事業性評価融資やライフステージに応じた取組についてはやや一般的な説明となっています。もう少し重点分野を明示してもよかったのではないでしょうか。
(3)東京スター銀行
東京スター銀行の経営計画はProject Trust(成長戦略推進プロジェクト)が中核となっています。このプロジェクトにおいては、重点顧客・ニーズ・ソリューション・チャネル戦略を、一貫性を持たせて具体的に設定しています。
金融仲介機能のベンチマークの説明は非常に特徴的です。共通ベンチマークや選択ベンチマークの掲載が少ない一方、大変多くの独自ベンチマークを掲載しています。テーマごとに触れると、「担保・保証依存の融資姿勢からの転換」「本業(企業価値の向上)支援・企業のライフステージに応じたソリューションの提供」はオーソドックなテーマです。一方、「融資以外の多様な金融サービス提供」「顧客の海外業務・インバウンド関連事業支援」「顧客の多様な資金調達機会の提供」は特徴があり、その中身も独自のベンチマークで説明されています。
このように、東京スター銀行は非常に独自色が強いものです。特徴を打ち出そうとする姿勢自体は大変評価できるものです。一方で、創業や事業再生といったどの地銀でも重要である(がゆえに共通ベンチマークとされている)項目についても情報が欲しいと思いました。
やはりあるべき形としては、重要な項目を網羅したうえで、独自の情報を伝えることではないかと思います。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①東京都民銀行及び八千代銀行(東京TYFG・きらぼし銀行)
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
独自ベンチマーク
1 地方公共団体等と連携した創業支援先数
2 海外進出・海外取引支援を行った件数
3 医療・介護関連事業に対するコンサルティング支援件数
4 本業支援に関連する地方公共団体等と連携した支援先数
5 本業支援に関連する地方公共団体等との情報提供件数
②東日本銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
34 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している支店従業員数、及び、全支店従業員数に占める割合
35 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している本部従業員数、及び、全本部従業員数に占める割合
独自ベンチマーク
なし
③東京スター銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
独自ベンチマーク
1 総合取引を行った顧客数
2 手数料収益比率(手数料収益等/経費前利益)
3 非金利収益比率(非金利収益/経費前利益)
4 デリバティブ販売件数
5 顧客の本業支援のためのビジネスマッチング実績
6顧客の海外業務支援件数
7 前項のうち、成約件数
8前項のうち、外国銀行代理業務による支援件数
9外国企業支援及びインバウンド関連事業支援
10シンジケートローンにおいて当行が事務主幹事(ブックランナー)を務めた件数、組成額
11 顧客支援のためのファンド活用件数
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
東京都民銀行及び八千代銀行(東京TYFG・きらぼし銀行)
東日本銀行
東京スター銀行
(3)各行における経営計画
東京都民銀行及び八千代銀行(東京TYFG・きらぼし銀行)
東日本銀行
東京スター銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。