金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る ~第40弾:鹿児島県編~
1.鹿児島県の地銀
鹿児島県は農業が盛んです。特に畜産が強く、豚飼養頭数が全国首位、肉用牛飼養頭数及びブロイラー飼養羽数は全国二位です。
鹿児島県には第一地銀の鹿児島銀行、第二地銀の南日本銀行があります。
鹿児島銀行は熊本県の肥後銀行と九州フィナンシャルグループを形成しています。
主要指標は下記表のとおりです。他県同様、第一地銀である鹿児島銀行が第二地銀である南日本銀行を圧倒しています。
鹿児島銀行 | 対南日本銀行比 | 南日本銀行 | |
経常収益(H29.3) | 72,900百万円 | 3.8 | 19,200百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 16,944百万円 | 4.6 | 3,651百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 67.2% | – | 72.9% |
経常損益(H29.3) | 16,160百万円 | 5.5 | 2,927百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 11.2% | – | 8.7% |
従業員(直近) | 2,192名 | 2.3 | 962名 |
県内貸出シェア(H29.3) | 47% | 11% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 両行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。
また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)
(1)鹿児島銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では事業性評価融資の割合が偏っています。全体に占める割合が先数で6%のところ、残高ベースで41%と、残高の多い先を重点的に融資していることが分かります(他行平均は各10%,20%程度)。
選択ベンチマークは13項目です。重要な項目は概ね記載されていますが、経営者保証ガイドラインの活用先数は他行も載せていることが多いのであった方がよかったでしょう。
数値面では、地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合が54%と非常に高く、掲載行の中でトップです。他行の平均は10%台です。
独自ベンチマークは4つです。地域密着についてのテーマに基づいており、大変良いテーマです。特に、牛・豚・馬のABL融資についてのベンチマークは非常に面白いです。
(2)南日本銀行
共通ベンチマークは5つです。
数値面では、鹿児島銀行とは逆に事業性評価融資割合の偏りが小さいです。全体に占める割合が、先数及び残高ベースでいずれも7%となっています。
選択ベンチマークは18項目です。数は多いのですが、経営者保証ガイドラインの活用先数、M&A支援件数、事業承継支援件数といった重要な項目はあった方がよかったでしょう。一方、「事業性評価に基づく融資を行っている与信先の融資金利と全融資金利との差」「地元への融資に係る信用リスク量と全体の信用リスク量との比較」「本業支援に関する取締役会における検討頻度」「企画業務と法人営業業務の経験年数」といった項目は非常に珍しい項目です。
数値面でも多くの特徴があります。まず、本業支援先数の全体に占める割合が高いです。平均10%弱のところ、当行は22%です。同様に、本業支援先のうち、経営改善が見られた先の与信先に占める割合も13%と高いです(当該割合は筆者算定)。他行はほとんど一桁台です。また、本業支援に関連する評価の支店の業績評価に占める割合も高いです。平均は20%程度ですが、当行は40%です。さらに、取引先の本業支援に関連する研修会の実施数、参加者数も大変多いです。各663回、6,340人と中央値の10倍程度です。
一方、実抜計画策定先のうち未達成割合は55%と、平均である10%台から大きくかけ離れています。
独自ベンチマークは当行がかなり力を入れているWIN-WINネット業務に関するものです。この業務は当行のコンサルティングによって売上が改善を図れた場合のみ手数料を受領する完全成功報酬型の業務です。大変珍しい取り組みであり、独自ベンチマークとしてはうってつけでしょう。
3.定性面の比較
(1)鹿児島銀行
鹿児島銀行の経営計画では、前回熊本県の肥後銀行と同様、経営統合効果の最大化を謳っている点が特徴的です。当行の経営計画と九州フィナンシャルグループの経営計画は連携するものだとしています。
金融仲介機能のベンチマークは取組みとベンチマークがバランス良く配置され、非常に見やすいものです。また、地域密着型金融のへの取り組みについても独自ベンチマークを設定しており、その中身も地域特性を活かしたものもあり高評価です。
(2)南日本銀行
南日本銀行の経営計画は、課題として自行の体質が収益至上主義になりかねないことへ言及がある点がまず特徴的でした。次に、それに対する対策として顧客本位の業務であるWIN-WINネット業務への注力を計画の柱としている点がユニークです。さらに、業績評価方法の見直しをはっきり明示しているのもあまり見かけないものです。全体として、危機感が感じられる内容です。
金融仲介機能のベンチマークの説明においても、上記のWIN-WINネット業務を中心に据えています。すなわち、WIN-WINネット業務契約先の累計売上高改善額実績を独自ベンチマークとしている点を始め、担保・保証依存の融資姿勢からの転換や事業性評価に基づく融資についてもWIN-WINネット業務によって達成可能としています。
一方、ベンチマークの見せ方自体は羅列に近い状態で、非常にもったいないです。全融資金利と事業性評価先金利との差など大変ユニークなものもあるので、もっと定性的な情報があれば分かりやすかったろうと思います。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①鹿児島銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
9 地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)
16 創業支援先数(支援内容別)
19 M&A支援先数
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
21 事業承継支援先数
35 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している本部従業員数、及び、全本部従業員数に占める割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
独自ベンチマーク
1 農林水産、医療介護、環境・エネルギー分野の融資先数及び融資残高
2 ABL融資(牛・豚・馬)の融資先数及び融資残高
3 地方自治体からの受託先数と件数
4 経営者育成に資するセミナーの開催数と参加延べ人数
②南日本銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
6 事業性評価に基づく融資を行っている与信先の融資金利と全融資金利との差
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
9 地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)
10 中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
22 転廃業支援先数
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
24 事業再生支援先におけるDES・DDS・債権放棄を行った先数、及び、実施金額(債権放棄額にはサービサー等への債権譲渡における損失額を含む、以下同じ)
36 取引先の本業支援に関連する評価について、支店の業績評価に占める割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
47 地元への融資に係る信用リスク量と全体の信用リスク量との比較
48 取引先の本業支援に関連する施策の達成状況や取組みの改善に関する取締役会における検討頻度
50 経営陣における企画業務と法人営業業務の経験年数(総和の比較)
独自ベンチマーク
1 本業支援先(WIN-WINネット業務契約先)の累計売上高改善額実績
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
鹿児島銀行
南日本銀行
(3)各行における経営計画
鹿児島銀行
南日本銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。