金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第12弾:岐阜県編~
1.岐阜県の地銀
岐阜県には第一地銀が二つあります。大垣共立銀行と十六銀行です。
主要指標は下記表のとおりです。貸出シェアからいっても、ほぼ同規模の銀行です。
大垣共立銀行 | 対十六銀行比 | 十六銀行 | |
経常収益(H29.3) | 85,086百万円 | 0.9 | 99,972百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 17,188百万円 | 1.6 | 10,534百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 73.1% | – | 82.9% |
経常損益(H29.3) | 19,208百万円 | 1.6 | 11,998百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 9.4% | – | 9.2% |
従業員(直近) | 2,817名 | 0.9 | 3,291名 |
県内貸出シェア(H27.9,H26.3) | 29% | 28% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 両行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)大垣共立銀行
共通ベンチマークは五つすべて掲載しています。
選択ベンチマークは13項目です。内容はオーソドックスな項目ばかりです。
数値面では事業性評価融資の割合が他県と比べ低いです。他県では与信先数で10%前後、残高で20%前後が概ねの平均値なのですが、同行では各2.3%、6.5%となっています。
独自ベンチマークはありません。
(2)十六銀行
共通ベンチマークは五つすべて掲載しています。
選択ベンチマークは10項目です。大垣共立銀行と同様、オーソドックスな項目で構成されています。
数値面ではやや特徴があります。事業性評価融資の割合が低いのは大垣共立銀行と同様ですが、十六銀行では前年より大きな変化がありません。昨今事業性評価融資が業界全体で重視されているところ、多くの銀行が今年にかけて増加させている傾向を踏まえると、変化が少ないというのはやはり特徴といえるでしょう(H28.3→H29.3の与信先数割合:3.7%→3.9%、同残高割合8.7%→9.2%。なお、大垣共立銀行はH28.3実績がないため、前年比較できず)。
独自ベンチマークは「サプライヤー探索サービスによる取引先の本業支援件数」です。数値自体も他行が開催している通常の商談会と比べ多く(H29.3同サービス商談会開催回数46回)、効果的なアピールです。
3.定性面の比較
大垣共立銀行の中期経営計画(平成28年度~平成30年度)は「Very OKB」です。オーソドックスな内容で、特筆すべき点はありません。
金融仲介機能のベンチマークとの関連では、同計画の基本戦略の一つに「地域からの絶対的な信頼」があり、その推進項目として「お客様に対するコンサルティング機能の発揮」「地域の面的再生への積極的な参画」「地域やお客様に対する積極的な情報発信」があるという構成です。ベンチマーク自体は巻末に一覧で載っていますが、本文では全18項目のうち、5項目のみが触れられています。もっとたくさんの項目のベンチマークを本文で触れ、取組みの補足説明にした方がよかったんじゃないかと思います。
十六銀行の中期経営計画(平成29年度~平成31年度)もオーソドックな内容で特筆すべき点は見当たりません。
金融仲介機能のベンチマークと同計画の関連は不明瞭です。地域密着型金融の取組については資料を用いて説明がありますが、ベンチマーク説明資料とはと別々です。説明の仕方としても、共通ベンチマークの1番から順に説明されており、その内容も定義の説明以外の定性情報はありません。せっかくユニークな独自ベンチマークを設定しているのだから、もう少し定性情報と絡めた説明にした方が分かりやすいのではないかという印象です。
まとめです。
ベンチマークはただそれを掲載するだけではその銀行の意図が伝わりません。戦略の中に位置づけて、推移も含めてその数値について自行がどのように解釈しているのかなど、何らかの説明がないと「だからどうした」という感想を持ちがちです。換言すると、読み手にメッセージがない見せ方だと説得力を持たせるのは難しいということです。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)二行が共通して掲載している項目
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
(2)一行のみが掲載している項目
①大垣共立銀行のみが掲載している項目
選択ベンチマーク
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
22 転廃業支援先数
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
独自ベンチマーク
なし
②十六銀行のみが掲載している項目
選択ベンチマーク
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
1 サプライヤー探索サービスによる取引先の本業支援件数
(3)各行における金融仲介機能のベンチマーク
大垣共立銀行(公表日不明)
十六銀行(公表日不明)
(4)各行における中期経営計画
大垣共立銀行(平成28年度~平成30年度)
十六銀行(平成29年度~平成31年度)
(5)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」より引用しています。貸出シェアについては適宜情報が掲載されている各種サイトより引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。