金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第23弾:高知県編~
1.高知県の地銀
高知県はカツオやナス・ししとうなどに代表される一次産業が盛んです。
高知県には第一地銀である四国銀行と第二地銀である高知銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。他県同様、第一地銀である四国銀行が高知銀行よりも規模が大きいです。
四国銀行 | 対高知銀行比 | 高知銀行 | |
経常収益(H29.3) | 47,978百万円 | 2.6 | 18,278百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 7,243百万円 | -3.9 | -1,849百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 77.1% | – | 86.8% |
経常損益(H29.3) | 10,336百万円 | 3.6 | 2,883百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 9.6% | – | 9.8% |
従業員(直近) | 1,338名 | 1.5 | 903名 |
県内貸出シェア(直近) | 不明 | 24% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 両行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)四国銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、事業性評価融資の割合が減少しています(残高ベース:H28.3期23.8%→H29.3期20.8%)。他行と比べこの動きは珍しいので、何らかの説明があった方がよかったでしょう。
選択ベンチマークは6項目です。重要なベンチマークは記載していますが、担保保証に依存しない融資はほしいところです。
数値面ではメイン取引先の全取引先に占める割合が多めです。他行が4割強程度が多いところ、当行は6割近くあります。
独自ベンチマークはありません。
(2)高知銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では 、事業性評価融資の割合が増加しています(残高ベース:H28.3期14.4%→H29.3期24.3%)。
選択ベンチマークは7項目です。経営者保証ガイドラインの活用やM&A支援件数の項目はあった方がよかったでしょう。
数値面では、ソリューション提供先数の取引先に占める割合が低めです。当行は1ケタ台ですが、他の銀行は1割強が多くなっています。また、事業承継支援数も一桁のため、低くなっています。
独自ベンチマークはありません。
3.定性面の比較
四国銀行の中期経営計画(平成28年度~平成30年度)の戦略目標は「ヒトと意識をダイナミックに進化させる」「組織をダイナミックに進化させる」「高品質の金融サービス力の発揮」「財務力の向上」です。高知、徳島、瀬戸内・阪神・東京といった地域ごとに、リーダー戦略、チャレンジャー戦略、ニッチャー戦略を設定しているのが特徴的です。
金融仲介機能のベンチマークはコンサルティング機能の発揮のための活用ツールと位置付けています。構成はテーマごとに取り組みや事例と共に説明されており、わかりやすいです。欲を言えば、昨年対比で推移を載せた方が分かりやすかったでしょう。また、成長分関連のファンド実績が300件超、300億円超とかなり力を入れているようなのでこのような重点分野は独自ベンチマークとしてアピールした方が良いと思いました。
高知銀行の中期経営計画(平成27年度~平成29度)の基本戦略は「地域密着型金融の深化」「財務基盤の一層の強化」「経営管理態勢の強化」「人材力の最大発揮」です。特徴的な点は、地域別戦略である「ブロック・エリア制」について詳細な説明をしている点です。
金融仲介機能のベンチマークとの関連についての言及はありません。内容としては、四国銀行と同様、成長分野への取り組み実績が目を引きます。これは、高知県では「高知県産業振興計画」を策定し、官民一体で取り組んでいる点と関係があるようです。
一方で、担保・保証に過度に依存しない融資の項目はありますが、ここで記載されているベンチマークは事業性評価融資関連のもののみです。本来これらのテーマは表裏一体となるはずですが、意地の悪い見方をすれば、事業性を重視した融資をしても、担保や信用保証協会の保証、経営者の保証を厚くすることは出来るわけです。そのため、「担保・保証に過度に依存しない融資」を謳うのであれば、無担保・無保証・経営者保証ガイドラインの活用といったベンチマークを載せなければ説得力は生まれないでしょう。
他には、定性情報のみの説明箇所も多々ありましたが、このあたりもベンチマークを使って説明すればより具体的なイメージがしやすいと思いました。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)二行が共通して掲載している項目
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
21 事業承継支援先数
(2)一行のみが掲載している項目
①四国銀行のみが掲載している項目
共通ベンチマーク
なし
選択ベンチマーク
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
19 M&A支援先数
独自ベンチマーク
なし
②高知銀行のみが掲載している項目
共通ベンチマーク
なし
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
16 創業支援先数(支援内容別)
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
独自ベンチマーク
なし
(3)各行における金融仲介機能のベンチマーク
四国銀行 p.19~29
高知銀行
(4)各行における中期経営計画
四国銀行(平成28年度~平成30年度)
高知銀行(平成27年度~平成29年度)
(5)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」より引用しています。貸出シェアについては適宜情報が掲載されている各種サイトより引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。