金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第28弾:千葉県編~
1.千葉県の地銀
千葉県は一次産業から三次産業までいずれも盛んで、バランスが取れています。農業では落花生、水産業ではイワシ、スズキが全国一位です。製造業では醤油が有名であり、京葉工業地域によって重化学工業も盛んです。
千葉県には第一地銀である千葉銀行、千葉興業銀行と第二地銀である京葉銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。規模の大きい順に、千葉銀行、京葉銀行、千葉興業銀行となっています。
千葉銀行 | 対京葉銀行比 | 千葉興業銀行 | 対京葉銀行比 | 京葉銀行 | |
経常収益(H29.3) | 201,230百万円 | 3.1 | 43,713百万円 | 0.7 | 65,774百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 62,100百万円 | 3.4 | 8,064百万円 | 0.4 | 18,263百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 57.2% | – | 75.8% | – | 67.1% |
経常損益(H29.3) | 70,005百万円 | 4.1 | 8,389百万円 | 0.5 | 17,239百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 13.0% | – | 8.5% | – | 11.2% |
従業員(直近) | 4,357名 | 2.0 | 1,326名 | 0.6 | 2,148名 |
県内貸出シェア(直近) | 40% | 12% | 17% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 千葉銀行は国際基準、他二行は国内基準。国際基準では8%,国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)千葉銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では事業性評価融資先の割合が高いです。同与信先数の全体に占める割合が40%、残高ベースは56%です。他行平均がそれぞれ10%,20%程度である点を考慮するとその高さが分かると思います。
選択ベンチマークは14項目です。担保保証に依存しない融資関連も含め、主要な項目は網羅されています。
数値面ではメイン先数の取引先に占める割合が60%と高いです(他行平均は40%~50%程度)。割合ではなく先数では8年連続地銀一位と謳っているのでやはり特徴的な要素なのでしょう。
独自ベンチマークはありません。
(2)千葉興業銀行
共通ベンチマークは3つ掲載しています。 「共通」のため、掲載した方がよかったでしょう。
数値面では、事業性評価融資の残高ベースの割合が30%と高いです。
選択ベンチマークは11項目です。担保・保証に依存しない融資関連、事業承継支援数は欲しかったですね。一方、本業支援担当の本部従業員数は比較的珍しい項目です。
独自ベンチマークはありません。
(3)京葉銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では貸付条件変更総数の与信先に占める割合が低めです。他行は1割程度ですが、当行はその半分程度しかありません(当該割合は筆者算定)。また、条件変更総数のうち、他行では7,8割が計画なし先も含めた不調先なのですが、当行では4分の1程度と、順調先以上が多いのが特徴です。
事業性評価融資の割合は他行と同様高めです(先数で30%,残高ベースで42%)
選択ベンチマークは4項目です。千葉興業銀行と同様、担保・保証に依存しない融資関連、事業承継支援数は欲しかったです。
数値面では,M&A支援件数の定義がM&Aに関する相談受付数である点を踏まえると、38件という数字は低いのではないかと思われます。
独自ベンチマークはありません。
3.定性面の比較
(1)千葉銀行
千葉銀行の経営計画は「ベストバンク2020 Final Stage-価値共創の3年」です。主要課題は「お客さまとの共通価値の創造」「すべての職員が輝く働き方改革の実現」「持続的成長に向けた経営態勢の強化」といったごくオーソドックスな内容です。
金融仲介機能のベンチマークは上記「お客さまとの共通価値の創造」が「事業性評価の推進と地方創生への積極的な貢献」というテーマに繋がり、それをさらに「金融仲介機能の発揮」へと繋げるための活用ツールとしています。見せ方としても、テーマごとに取り組み・事例・ベンチマークのバランスが非常に良く取れたものとなっています。各ベンチマークについて前年からの推移も載っているので変化が分かりやすい点も好印象です。欲を言えば、独自ベンチマークや地域特性を活かした説明があればもっとよかったでしょう。
(2)千葉興業銀行
千葉興業銀行の経営計画は「コンサルティング考動プロジェクト2019」です。重点課題は営業基盤強化、人材・組織基盤強化といった内容です。
金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての記載はありません。全体的な構成は悪くありませんが、全体的なテイストとして「コンサルティング考動」をキーワードとしているため、コンサルティングに関するベンチマークはもっと多い方がより強く姿勢を伝えることができたのでは。
(3)京葉銀行
京葉銀行の経営計画は「α ACTION PLAN 2018 持続的成長へ向けた変革と実行」です。経営課題は「地域活性化への積極的な貢献」「将来を見据えた経営基盤の構築」「経営管理態勢の高度化」といったもので、施策もごくオーソドックスです。
金融仲介機能のベンチマークは金融仲介機能をさらに発揮するための活用ツールとしています。全体的な印象としては、取り組みや事例の説明が弱い感じです。地域特性についての説明があればなおよかったでしょう。例えば、成長分野への事業支援の記載がありますが、「成長分野」はどこの県でも当行のように「医療・介護」「海外」「農業」「環境」であることが多いです。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)二行以上が共通して掲載している項目
①三行が掲載
共通ベンチマーク
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
19 M&A支援先数
②千葉銀行と千葉興業銀行
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
③千葉銀行と京葉銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
選択ベンチマーク
なし
④千葉興業銀行と京葉銀行
選択ベンチマーク
16 創業支援先数(支援内容別)
(2)一行のみが掲載している項目
①千葉銀行のみ
選択ベンチマーク
8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
17 地元への企業誘致支援件数
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
21 事業承継支援先数
22 転廃業支援先数
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
独自ベンチマーク
なし
②千葉興業銀行のみ
選択ベンチマーク
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
35 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している本部従業員数、及び、全本部従業員数に占める割合
40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数
41 取引先の本業支援に関連する外部人材の登用数、及び、出向者受入れ数(経営陣も含めた役職別)
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
なし
③京葉銀行のみ
選択ベンチマーク
24 事業再生支援先におけるDES・DDS・債権放棄を行った先数、及び、実施金額(債権放棄額にはサービサー等への債権譲渡における損失額を含む、以下同じ)
独自ベンチマーク
なし
(3)各行における金融仲介機能のベンチマーク
千葉銀行
千葉興業銀行
京葉銀行 p.9~
(4)各行における経営計画
千葉銀行
千葉興業銀行
京葉銀行
(5)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。