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金融機関による事業支援のあり方とは

押し付けの支援になってはいないか

昨今、事業性評価が取り沙汰されておりますが、これに付随して言われているのが、金融機関による事業支援機能です。

つまり、会社の事業の中身を判断して融資する過程において、事業を円滑に行うための支援をしましょうという話ですね。

もちろん好ましい流れではあるのですが、実際に行われている支援の中身を見てみると、必ずしも望ましいものとは言い切れない面があります。

一言でいうと、金融機関側の押し付けになってはいないか、ということです。

金融機関の視点は?

では、金融機関側の視点を見ていきましょう。

支援のメニューとしては事業承継や再生計画作成など多岐にわたりますが、手軽でポピュラーなのは商談会、マッチング支援などの販路拡大です。

これら商談会を実施することに金融機関は何の疑問も感じていません。

必要な頭数を集め無事に商談会を開催できただけで満足でしょうし、成約があれば企業のために貢献することが出来たと喜ぶでしょう。

一見問題なさそうです。

しかし、本当に会社は喜んでいるのでしょうか。

会社の視点は?

会社にとって、販路拡大は言うまでもなく非常に重要です。

しかし、気軽に商談会に参加したくない理由がいくつかあります。

まず、準備に非常に手間がかかります。

商品を包装したり、運送したり、説明のための資料を作成したりと、1時間の商談会のためにかなりの手間をかけることになります。

しかし、手間をかけた割には制約に結びつく可能性も低く、費用対効果は良くないと思っているケースがほとんどです。

また、首尾よく成約して取引に繋がったとしても、契約条件によっては取引をしない方が良い場合もあります。

当然バイヤー側の立場が優位のケースが多いわけですが、要求される取引条件を全て飲むと採算が悪くなる場合や、他の条件の良い取引を犠牲にせざるを得ない場合も出てきます。特に大手との取引においては、条件面でも中小企業にとって不利な場合も多く、一回の注文量も大きいためすぐにキャパがいっぱいになる、その上、先方の担当者の変更により簡単に取引を切られるリスクも高いため、実は不安要素が多いのです。

そのため、必ずしも商談会が会社に喜ばれているわけではないのですが、金融機関としては開催の実績を外部に公表できるため、インセンティブがあるわけです。

そのため、積極的に事業者に声をかけて参加を募るのです。

これが結果的に押し付けになっているのではないか、と思うのです。

本来のあり方は

では、本来どうあるべきでしょうか。

いうまでもありませんが、会社の実際のニーズに基づいて行動するということです。

つまり、上記の例でいえば、販路拡大という錦の御旗があれば細かいことは考えなくても良いだろう、という感覚に陥りがちですが、本当に経営者がやりたいのか、求めているのは何なのかを明確にすることにより上記のようなミスマッチを防げるのですね。

事業支援の役割はあくまでもサポートにすぎません。

主役は会社です。

そのため、色々な提案を金融機関側からするのは結構なのですが、決定権及びその結果から生じる責任は全て経営者にあることを十分に自覚させるべきです。

言い換えるのであれば、何よりも経営者の「腹落ち感」を大切にしてほしいということです。

金融機関側の都合で事業支援の実績を作ろうと思ってもうまくいかないということですね。

金融仲介機能のベンチマーク(※)との関係

真の意味で会社にとって役に立つ事業支援をする上で、重要なポイントは二つあると思います。

いずれも金融仲介機能のベンチマークに関連した話です。

まず、組織内の話です。

上述した経営者の「腹落ち感」を大切にしてほしいというのは、ある意味実際に経営者とコンタクトを取る担当者のモラルに依存するということです。つまり、担当者によってばらつきが出るということです。

このようなばらつきをなくすために、金融機関の経営者はどのような方法が取れるのでしょうか。

それは、支店や個人の評価制度に織り込むことです。

現状の選択ベンチマークでも「36,37 取引先の本業支援に関連する評価について、支店(個人)の業績評価に占める割合」という項目がありますので、事業支援を評価制度に組み込もうとしている金融機関は多いでしょう。

しかし、ここで申し上げたいのは、ベンチマークとしてただ用いるだけでなく、その事業支援の中身が本当に実効的なものであるのかを評価するための仕組みや追加的な説明をすることが必要ということです。

次に、対外的な話です。

商談会などを積極的に行おうという動きは、選択ベンチマーク「18.販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)」を増やそうとすることが動機の一つだと思います。

しかし、数だけで実績を説明しようとすると、中身のない実績だけが積み重なり、その結果数だけが増えるという顛末になりがちです。

これを良しとする経営者は多くはないでしょう。

ではどうすればよいか。

ベンチマークのような定量的な指標だけでなく、定性的な説明をしっかりすることです。つまり、数だけを提示するのではなく、一つ一つの中身が会社にとって非常に有意義であることを説明するのですね。

また、関連するベンチマークとして「30.金融機関の本業支援等の評価に関する顧客へのアンケートに対する有効回答数」という項目があります。

これもただ数だけを公表するのではなく、会社の満足度を上げるためにどのような方針を設定しているか、取り組みをしたかを説明することが大切なのですね。

数字だけではなくその中身についてもしっかり説明することで、ベンチマークの数だけを追わずに、経営方針と現場の動きを整合させることが出来るのです。

※金融仲介機能のベンチマーク

平成28年9月に金融庁が公表した、金融機関における金融仲介機能の評価をするためのベンチマーク。

活用方法として、①金融機関による自己点検・評価、②企業への自主的開示、③当局との対話ツールが挙げられている。

どの金融機関にも用いられる共通ベンチマーク5項目及び金融機関により取捨選択できる選択ベンチマーク50項目がある。

※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。