金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第36弾:愛媛県編~
1.愛媛県の地銀
愛媛県はみかん・いよかんに代表されるかんきつ類の生産が有名です。また、造船といった製造業や今治タオルといった繊維業も盛んです。
愛媛県には第一地銀である伊予銀行と第二地銀である愛媛銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。第一地銀である伊予銀行の規模の方が大きくなっています。
伊予銀行 | 対愛媛銀行比 | 愛媛銀行 | |
経常収益(H29.3) | 99,291百万円 | 2.6 | 38,088百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 25,813百万円 | 3.8 | 6,849百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 65.3% | – | 74.9% |
経常損益(H29.3) | 33,060百万円 | 4.8 | 6,836百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 14.3% | – | 8.3% |
従業員(直近) | 3,017名 | 2.2 | 1,364名 |
県内貸出シェア(H29.3) | 36% | 19% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 伊予銀行は国際基準、愛媛銀行は国内基準。国際基準では8%,国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。
また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)
(1)伊予銀行
共通ベンチマークは3つ掲載しています。 掲載されていない項目は事業再生や創業に関するものです。両者とも地域経済活性化において重要な指標のため、第一地銀としては掲載してほしかったですね。
数値面では、事業性評価融資の割合において偏りが大きいです。先数は4%である一方、残高ベースでは26%です。 (他行平均は各10%,20%程度)。
選択ベンチマークは8項目です。重要な項目は掲載されています。ただし、担保・保証に依存しない融資の項目についてはあった方がよいでしょう。
数値面では、新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合が8%とやや低めです。他行平均は18%程度です。
また、事業承継支援件数においては注意が必要です。というのも、通常は年間の数値を記載しますが、伊予銀行においては事業承継支援に本格的に着手した平成26年度からの累積数値を掲載しています。そのため、H28.3期3,157件、H29.3期において3,287件と非常に多くなっています(他行では200件程度が平均)。
独自ベンチマークは「外航海運事業者向け貸出残高」1項目です。地域特性に基づいた良い指標です。
(2)愛媛銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面における特筆事項はありません。
選択ベンチマークは21項目です。非常に多くのベンチマークを掲載しており、特に担保保証に依存しない融資関連についてはほとんどの項目を掲載しています。
数値面では、中小企業再生支援協議会の活用先数が28件と多いです。他行は10件程度が平均です。また、本業支援に関する他機関との連携数等も244件と多いです。掲載行自体少ないものの、現在のところ最も多い件数です。
独自ベンチマークはありません。
3.定性面の比較
(1)伊予銀行
伊予銀行として経営計画は「First Stage for 150」です。特徴的な点は地域特性である海事クラスターの発展を積極的にしようとしている点です。
金融仲介機能のベンチマークにおける定性面では、地域活性化に関する取り組みについての説明が充実しています。特に、地域特性である海運関連業についての説明は非常に良いです。その上で、地方自治体や地方教育機関などとの連携は定性面のみなので、こちらについてもベンチマークがあった方が良かったと思います。
(2)愛媛銀行
愛媛銀行の経営計画における基本方針は「お客様サービスの向上」「リスク管理態勢の充実」「効率経営の追及」です。
金融仲介機能のベンチマーク説明においては、ベンチマークの充実に対して定性情報はあっさりしている印象です。上述したようにベンチマークの数は非常に多いのですが、具体的な取り組みや事例も併せて載せた方がより分かりやすかったのではないかと思います。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①伊予銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
21 事業承継支援先数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
1 外航海運事業者向け貸出残高
②愛媛銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
9 地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)
10 中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
21 事業承継支援先数
22 転廃業支援先数
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
44 取引先の本業支援に関連する他の金融機関、政府系金融機関との提携・連携先数
独自ベンチマーク
なし
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
伊予銀行
愛媛銀行
(3)各行における経営計画
伊予銀行
愛媛銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。