金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る ~第47弾:長崎県編~
1.長崎県の地銀
とうとう最後の都道府県になりました。トリを飾るのは長崎県です。
長崎県は島が多く、海に囲まれているため水産資源に恵まれ、漁業が盛んです。また、佐世保に代表されるように造船も盛んです。
長崎県には第一地銀である十八銀行、親和銀行及び第二地銀である長崎銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。
長崎県の地銀といえば、十八銀行と親和銀行の経営統合を巡る報道でしょう。十八銀行とふくおかフィナンシャルグループ内の親和銀行は経営統合を目指していますが、公正取引委員会からストップがかかり、現在白紙状態です。理由の一つが県内シェアですが、貸出シェアは両行合わせて69.8%となっています。すぐに承認された三重県の三重銀行・第三銀行は併せて27.5%、最近ようやく承認された新潟県の第四銀行と北越銀行は同53.0%です。
長崎県の地銀の経営統合の行く末は他県の地銀の今後の経営統合の方向性を占ううえで、非常に注目されています。
十八銀行 | 対長崎銀行比 | 親和銀行 | 対長崎銀行比 | 長崎銀行 | |
経常収益(H29.3) | 43,000百万円 | 8.1 | 36,272百万円 | 6.8 | 5,340百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 6,300百万円 | 16.8 | 7,162百万円 | 19.1 | 374百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 75.0% | 73.6% | 89.9% | ||
経常損益(H29.3) | 6,500百万円 | 12.5 | 9,427百万円 | 18.1 | 520百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 11.4% | 8.8% | 8.7% | ||
従業員(直近) | 1,385名 | 5.4 | 1,211名 | 4.7 | 256名 |
県内貸出シェア(H29.3) | 37% | 33% | 7% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 全行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。
また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)
(1)十八銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、メイン先の経営指標等が改善した割合が高めです。平均が70%弱のところ、十八銀行においては83%です。一方、これは他の二行ともいえることですが、事業性評価融資の割合は低めです。平均においては先数で10%のところ、十八銀行は2%です。
選択ベンチマークは14項目です。特徴的な項目としては、取引先への平均接触頻度があります。
数値面においても同項目が高いです。掲載行はとても少ないのですが、3.3回/月は掲載行の中で最も高いです。また、全取引先に占めるメイン先の割合も62%と高めです。平均は40%台です。
独自ベンチマークは2項目です。特に、地域の特徴的な産業に関するベンチマークはとても良いでしょう。
(2)親和銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では十八銀行と同様、事業性評価融資の割合が低めです。先数で4%です。
選択ベンチマークは6項目です。もう少し増やして、重点分野を明確にしてもよかったのではないでしょうか。
数値面では、海外への販路開拓が約50件と多いです。地方銀行において海外の販路開拓はハードルが高いらしく、掲載している銀行でも一桁はざらです。この項目は差が付きやすく、集計方法の違いもあるかもしれませんが、各銀行の色が出やすい項目でしょう。
独自ベンチマークはありません。
(3)長崎銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、他二行と同様、事業性評価融資の割合が先数で5%と低めです。
選択ベンチマークは5項目です。販路開拓支援先数、M&A支援先数、事業承継支援先数あたりの重要な項目はあった方がよかったでしょう。
数値面では、新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合が高いです。長崎銀行は25%ですが、平均はその半分程度です。
独自ベンチマークはありません。
3.定性面の比較
(1)十八銀行
十八銀行の経営計画は「CS3」です。Commitment、Communication、Challengeの三つのCと、Speed、Solution、Sincerityの三つのSを打ち出しています。
金融仲介機能のベンチマークの説明においては、地域特性についての説明や独自ベンチマーもあり、まとまりがあるものでした。ただし、重点分野がやや分かりにくい印象です。例えば、事業性評価融資の割合はやや低めなので、これについての具体的な取組みをもっと充実させてもよかったのではないでしょうか。
(2)親和銀行
親和銀行の経営計画はふくおかフィナンシャル・グループ(福岡銀行・熊本銀行・親和銀行)として策定された「ザ・ベストリージョナルバンクを目指して」です。そのため、福岡県編(第29弾)でのコメントを再掲します。特徴的な点は「広域展開型地域金融グループ」として、地元を「九州」と位置付けている点です。基本戦略は「ビジネスモデルの進化」「人財力の強化」「グループ総合力の発揮」「強固なブランド力の構築」です。
金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての説明はありません。
個々のベンチマークの説明においては、ベンチマークの推移を用いながら経営方針が実現されていると説明するもので、説得力がありました。例えば、地元中小企業融資先の非保全率の推移を用いながら、担保・保証に過度に依存しない融資が増えている点を説明しています。
(3)長崎銀行
長崎銀行の経営計画は、西日本シティ銀行とともに西日本フィナンシャルホールディングとして策定された「飛翔2020 ~知恵をしぼろう~」です。そのため、親和銀行と同様、福岡県編でのコメントを再掲します。基本戦略は「金融サービスの向上」「収益体質の強化」「組織力の強化」「グループ経営の高度化」といった標準的なものです。
金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての記載はありません。また、全体的に個々のベンチマークについての説明も少ないと感じました。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①十八銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
4 取引先への平均接触頻度、面談時間
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
28 中小企業に対する経営人材・経営サポート人材・専門人材の紹介数(人数ベース)
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
1 法人向けセミナー参加社数
2 「元気な長崎」応援融資実績(観光・農林水産・基幹製造関連の件数、融資実行額)
②親和銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
独自ベンチマーク
なし
③長崎銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
なし
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
十八銀行
親和銀行
長崎銀行
(3)各行における経営計画
十八銀行
親和銀行
長崎銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。