金融仲介機能のベンチマークを項目ごとに見る ~第一段:共通ベンチマーク1-5~
前回までは県別・銀行別に金融仲介機能のベンチマークを見てきました。いわばこれは、同ベンチマークを銀行ごとに、つまり縦軸で見る方法です。今回からは横軸、つまり項目ごとに同ベンチマークを見ていきます。各ベンチマークの傾向値が分かれば、自行が全体の中でどのあたりに位置するかを把握しやすくなるのではないでしょうか。
なお、前回までに何度も書いていることですが、銀行によって項目の定義が若干異なることがありますので、実態が同じでも異なる数値が出る場合があります。そのため、あくまで比較は絶対的なものではなく参考値とならざるを得ない点ご了承ください。
共通ベンチマーク1
金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
(掲載率)
複数項目ありますが、いずれも7割強の銀行が掲載しています。
(最大や平均値)
数値については、絶対値による比較は銀行の規模の大きさにダイレクトに左右されてしまうので、比較の基準として適しません。よって、百分率で比較することとします。(以後も基本スタンスは同様)
このような視点から、経営指標等が改善した割合で見ていくと、平均はともに7割弱、最大は9割弱、最少は3割前後です。
(寸評)
経営指標等が改善した割合ですが、景気など外部環境の影響を直接的に受けることを考えれば、半分強の企業で経営指標が改善したというのは妥当な数値でしょう。
共通ベンチマーク2
金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
(掲載率)
7割強です。
(最大や平均値)
与信先に占める条件変更数の割合(数値は独自算出)で見ると、最大2割、平均1割です。
(全体に占める割合など)
条件変更先における割合(数値は独自算出)は、好調先1割、順調先2割、不調先4割、計画なし先3割です。計画なし先は不調先に含むことも多いので、実際はもっと多いと考えられます。
(寸評)
条件変更数の与信先に占める割合は、後述する共通ベンチマーク4における再生期の全体に占める割合とおおむね一致するものの、低迷期も条件変更が必要である点を考えると、もっと多くてもよいのではないでしょうか。(つまり、本来条件変更が必要なのに経営者の私財投入などで条件変更がなされていない可能性)
また、通常不調先に含まれる計画なし先は現状銀行にとってお手上げ状態の先と推測されます(不調先の中でも計画策定が可能な先は計画を策定すると考えられるため)。当座をしのいだとしてもいずれは行き詰まるでしょうから、廃業支援など、このゾーンに対するアクションは今後重要となるでしょう。
共通ベンチマーク3
金融機関が関与した創業、第二創業の件数
(掲載率)
創業件数が7割強、第二創業が5割程度です。
(最大や平均値)
銀行の規模によって大きく違うのであくまで参考値ですが、平均は創業件数で500件前後、第二創業で十数件です。
(全体に占める割合など)
与信先に占める割合(数値は独自算出)は、創業件数で最大が10%台半ば、平均が3%です。
(寸評)
どの銀行も地方活性化の大きな柱として起業の促進を重要視していますから、もう少し創業件数の割合が多くてもよいのではないでしょうか。
共通ベンチマーク4
ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
(掲載率)
7~8割です。
(全体に占める割合など)
先数と融資額で若干違うものの、与信先(額)に占める割合は概ね各創業期5%、成長期10%、安定期60%、低迷期3%、再生期10%(合計が100%に届かないのは、決算書に不備があるなどの融資先はライフステージの分類をしていない銀行があるため)
(寸評)
・再生や創業を示す共通ベンチマーク2,3とおおむね整合的です。当然銀行によってばらつきはあるので、自行の特徴によって他の同ベンチマークを設定するのも一案でしょう(例えば再生期の企業割合が他行よりも多ければ再生関連のベンチマークを重視するなど)。
共通ベンチマーク5
金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
(掲載率)
7割強です。
(最大や平均値)
与信先数の割合では、最大5割弱、平均1割。融資残高の割合では、最大9割、平均2割です。
残高の方が大きくなる傾向にあるのは、残高の大きい先を重点先、つまり事業性評価融資の対象となる先というケースが多いためと推測されます。
(寸評)
事業性評価融資は特に金融庁が強く重視している項目でもありますので、ほかの共通ベンチマークと比べても掲載率が高くあってほしかったです。また、注意点としては事業性評価の定義が銀行間で大きく異なることもあり、他のベンチマークに比べてより一層単純な比較は困難であることです。
※最大値、最小値、平均等の数値はH29.3の数値を用いています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。