経営者保証の解除が進んでいるのを知っていますか
経営者保証ガイドラインの適用
事業承継においては、後継者の経験やノウハウが乏しいことが少なくないため、金融機関は事業承継時の経営者保証の解除に対して消極的であることが一般的でした。しかし、経営者保証がスムーズな事業承継を阻害する要因の一つであるとして、平成26年2月から経営者保証ガイドライン(GL)が適用されることとなりました。
金融仲介機能のベンチマークにも関係する
GL適用開始から数年が経過し、GL活用実績も公表されています。これによると、経営者からの保証解除の申し出等に対して46%が解除に応じており、解除されないがその理由について具体的で丁寧な説明があったとされるケースが33%ありました。そのため、8割程度は誠実な対応であると言えるでしょう。以前に比べれば、金融機関の意識も大きく変わったのではないでしょうか。
さて、このGLですが金融仲介機能のベンチマーク(※1)における選択ベンチマークの1つになっています。
具体的には、
11. 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
という項目があります。全体の約半数の金融機関がこの項目を掲載しているため、重要な指標といえるでしょう。
また、この項目に関連する指標として、「(GL活用状況)保証契約解除件数」も併せて掲載している金融機関も同2割に上ります。
つまり、金融機関によっては外部にアピールするために積極的にGLを利用するインセンティブがあるということですね。
そのため、経営者の皆様におかれましては積極的に金融機関に打診してほしいのです。
解除におけるポイント
とはいえ、どのような会社でも保証解除ができるわけではありません。解除の可否を判断する上で一般的なポイントが3つあります。
①会社と経営者の明確な分離
金融機関の立場からすると、会社の事業のために貸し出しをしているわけですから、会社の事業以外に使われることは言語道断であるのです。よって、会社と経営者のはっきりした分離が必要となります。
②強固な財務基盤
会社の財産から返済できるのであれば、経営者の保証は必ずしも不要であるためです。
③財務状況の正確な把握および適時・適切な開示
金融機関が返済の可否を判断するための最大の資料は決算書です。この決算書が粉飾などで不正確なものであれば話にならないということですね。また、同様の理由で適時・適切な開示も必要となります。
解除の具体的事例
さて、一般的なポイントは上述した通りですが、実際のケースに当たっては様々なパターンが想定され、総合的に判断することになります。そこで、金融庁が公表している事例集から実際の事例を少し抜粋してみます。
①オーソドックスな事例
以下のような点が考慮され、前経営者の保証が解除されただけでなく、新経営者に対しても保証を求めなかったケースです。
・事業用資産はすべて法人所有
・法人から役員への貸付がない
・同族以外を経営に参加させるなど(顧問税理士の監査役など)一定の経営けん制機能がある
・法人の収益により借入金の返済が可能
・財務諸表以外の資料依頼(試算表等)に対して協力的
②ややイレギュラーなケース
法人と経営者との関係の区分・分離は不十分でした。しかし、それまでの返済状況や保全状況に全く問題がなかったことが考慮され、前経営者の保証を解除されたケースもあります。
経営者保証の解除は事業承継を進めるうえで大きなポイントになってきます。
そして、そのポイントを満たすことは一朝一夕でできるものではありません。
十分な準備をしたうえで事業承継を実行しましょう。
(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。