地銀が今考えなくてはならないことは何か
これまで半分近くの県で金融仲介機能のベンチマークを見てきました。その中である程度全体的な金融機関の姿勢が見えてきました。そこで、金融機関の課題と目指すべき方向について考えました。
現状の情報発信は似たり寄ったり
まず、多くの金融機関で同じような情報発信をしています。
例えば、中期経営計画での重点分野は銀行により表現は異なれども、地方創生、事業性評価、ITやフィンテックを活用した業務効率化、財務体質改善、人材教育のいずれかがほとんどです(だからこそうまくアピールできている銀行は目立ちます)。
もちろん具体的な施策は異なるでしょうし、その本気度も銀行によってまちまちでしょう。しかしながら、外から見る限りではその違いは極めて分かりにくいものです。
端的に言えば、情報発信に特徴がありません。そして、おそらく情報発信だけでなく、実際の経営もほぼ同じようなものでしょう。特徴がないから単純な競争が熾烈となり、苦境に陥っているように見えます。
特徴を打ち出せない背景
ではなぜ特徴を打ち出せないのか。
誤解を恐れずに言えば、思考停止になっている部分が多々あると思います。
なぜならば、これまではそれでうまくやってこられたから。伝統的な間接金融では預金者からお金を預かって、成長資金が欲しい企業に貸し出しその利ざやで儲けるわけです。ここでの銀行の役割はその仲介者であることですが、その機能面を除くと、必ずしも付加価値をつける必要はなかったのではないかと思います。もっとかみ砕いていえば、資金需要が旺盛な時代は何も考えずにお金を回すだけで儲けることができたということです。
そのような時代では他行との差別化も必要ないし、付加価値も考える必要はなかった。そのような状態が長く続けばそれが当たり前になるし、企業文化となり行員の考え方の常識ともなるでしょう。
また、金融行政も銀行の思考停止を招いた面があります。
1990年代までは護送船団方式により銀行経営陣の危機感は薄かったし、金融危機以後最近までは金融検査マニュアルの厳格な運用により自らの頭で思考する必要性は薄かった。
銀行が本当の意味で自分で考える必要性に迫られたのは金融行政の方針大転換のあったほんのここ数年です。
この辺りが、現状の横並び戦略の背景にあるのではないかと考えます。
どうすればよいか
そうはいっても現状の地銀を取り巻く環境は厳しくなるばかりです。
横並び競争の泥沼から抜け出すためには、答えがない答えを求めるという一見遠回りの作業を避けないことです。答えがないのは個別に違うからです。その地域の特性や銀行の歴史、競争環境などすべて置かれている前提条件が異なるわけですから、そこから生まれる答えも異なって当然なのです。
こうして生まれた考えには他行が真似できない独自性があります。だからこそ、持続的な競争優位が保てるのです(実際、業績の良い銀行ほど戦略に独自性があります)。
そしてまた、この方法ならば各地域がそれぞれの方向で共存が可能です。現在の金利競争のような不毛な争いをせずに済む。
独自性を活かし、現状の横並び戦略では満たされていないニーズに応えることで、市場規模そのものを大きくするということです。
経済が縮小する世界の中では限られたパイを奪い合ってもいずれ息切れします。
だからこそ、新しい種を蒔き、育て続けなければなりません。それを続けるためには真似されないようにするにはどうすればよいかを考えなくてはならないということです。
一番大事なのは覚悟
現実の世界には正しいこと・やるべきことが分かっていても行動に移せないことが多々あります。
各行が独自の戦略を打ち出すというのももっともな話でしょうが、一方で銀行経営者からの愚痴も聞こえてきそうです。限られた社内リソース、長年培われてきた企業文化、厳しさを増す地方経済・・・できない理由を挙げればきりがありません。そのうえ、どんなに正しいやり方で頑張っても志叶わず淘汰されることもあります。
それでも、自分たちを育んでくれた地域のために、そして自分たちの功罪をそのまま引き継ぐことになる次世代のために、今現実に影響を及ぼすことができる僕らは全力を尽くさなければならないのでしょう。
一言でいえば、覚悟の有無が地域の将来を決めるのでしょう。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。