金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第27弾:山形県編~
1.山形県の地銀
山形県は製造業が盛んで、有機ELや合成クモ糸繊維関連産業といった世界最先端技術を活かした事業化の促進を図っています。
山形県には第一地銀である山形銀行、荘内銀行と第二地銀であるきらやか銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。山形銀行が一番大きく、他二行は同程度です。
山形銀行 | 対きらやか銀行比 | 庄内銀行 | 対きらやか銀行比 | きらやか銀行 | |
経常収益(H29.3) | 39,667百万円 | 1.8 | 26,576百万円 | 1.2 | 22,602百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 5,750百万円 | 1.9 | 3,225百万円 | 1.1 | 3,059百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 76.8% | – | 81.7% | – | 83.5% |
経常損益(H29.3) | 7,254百万円 | 3.4 | 2,499百万円 | 1.2 | 2,159百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 11.7% | – | 10.0% | – | 8.9% |
従業員(直近) | 1,333名 | 1.3 | 836名 | 0.8 | 1,004名 |
県内貸出シェア(直近) | 37% | 18% | 18% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 全行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)山形銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では事業性評価融資先の偏りが大きいです。同与信先数の全体に占める割合が4%のところ、残高ベースは25%です。他行平均がそれぞれ10%,20%程度である点を考慮すると、残高の大きい会社を重点的に評価している状況が分かります。(なお、同指標はH28.3期のみ掲載しています)
選択ベンチマークは8項目です。主要な項目は網羅されていますが、担保保証に依存しない融資関連はあった方がよかったです。
数値面ではM&A支援件数が14件とこの規模の銀行としては少ないです。
独自ベンチマークはありません。
(2)荘内銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面での特筆事項はありません。
選択ベンチマークは5項目です。経営者保証ガイドラインの活用数、担保・保証に依存しない融資関連はあった方がよかったでしょう。
独自ベンチマークはありません。
(3)きらやか銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では山形銀行とは逆に事業性評価融資先の偏りが小さいです。同与信先数の全体に占める割合が14%のところ、残高ベースは18%です。
選択ベンチマークは11項目です。M&A支援件数や事業承継支援件数は欲しいところ。一方、本業支援の体制に関する項目が多いです。
数値面では本業支援に関連する研修の実施回数が飛びぬけて多いです。他行は40回程度が平均であるところ、当行は181回です。
独自ベンチマーク5項目は全て本業支援にまつわるもので、取り組み姿勢が明確です。
3.定性面の比較
(1)山形銀行
山形銀行の経営計画は「やまぎん イノベーション・プランⅢ」です。重点課題は「規模の拡大」「地域価値創造」「企業ブランド・CS強化」「人財力の向上」「生産性の向上」で目新しさはありません。しかし、スローガンの中にある地域に対する「責任」というフレーズが目を引きます。目標値についても県内GDP,新規雇用創出、M&A・事業承継関与数といった地域貢献に関連した指標を設定しています。
金融仲介機能のベンチマークは金融仲介機能の質を高めるための活用ツールとあります。分かりやすかった点が、地方創生についてベンチマークを用いて説明していた点です。この点は経営計画との整合を感じました。また、当行だけではないですが、経営改善支援取り組み率、ランクアップ率、再生計画策定率といった指標も分かりやすい指標でした。
(2)荘内銀行
荘内銀行の経営計画は「Consulting & Innovation」をスローガンとしています。荘内銀行は北都銀行とフィデアホールディングスを形成していますが、これによる統合効果を前面に打ち出しています。
金融仲介機能のベンチマークは、同ベンチマークのフォローを通じて改善につなげ、地域の活性化に貢献するとあります。具体的なベンチマークも地域産業への貢献、地方創生への取り組み、コンサルティング機能の強化といった経営計画と整合したものとなっています。
(3)きらやか銀行
きらやか銀行の経営計画は仙台銀行と形成するじもとホールディングスの下で一体として作成されています。その大きな方向性は「本気の本業支援」及び「本気の統合効果の発揮」であり、ある程度具体的なためイメージがしやすいものです。
金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての記載はありません。しかし、いずれも本業支援という切り口で設定しています。独自ベンチマークもこのテーマに基づいています。経営計画とも整合しているので、力点が明確です。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)二行以上が共通して掲載している項目
①三行が掲載
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
なし
②山形銀行と荘内銀行
選択ベンチマーク
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
③山形銀行ときらやか銀行
選択ベンチマーク
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
④荘内銀行ときらやか銀行
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
(2)一行のみが掲載している項目
①山形銀行のみ
選択ベンチマーク
17 地元への企業誘致支援件数
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
なし
②荘内銀行のみ
選択ベンチマーク
なし
独自ベンチマーク
なし
③きらやか銀行のみ
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
6 事業性評価に基づく融資を行っている与信先の融資金利と全融資金利との差
15 メイン取引先のうち、経営改善提案を行っている先の割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
44 取引先の本業支援に関連する他の金融機関、政府系金融機関との提携・連携先数
独自ベンチマーク
1 取引先の経営力向上のためのニーズを把握した件数
2 取引先の経営力向上のためのニーズを把握し、本業支援を行った先数、件数
3 本業支援先のうち、販路拡大支援を行った件数、及び、販路拡大支援による売上増加額
4 本業支援先のうち、 M&Aニーズに本部専担者も一体となって対応した先数
5 本業支援先のうち、事業承継ニーズに対応した先数
(3)各行における金融仲介機能のベンチマーク
山形銀行
荘内銀行
きらやか銀行
(4)各行における経営計画
山形銀行
荘内銀行
きらやか銀行
(5)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。