金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第29弾:福岡県編~
目次
1.福岡県の地銀
福岡県は第三次産業の占める割合が80%と高くなっています。特に、卸売業においては九州全体の6割のシェアを有します。
福岡県には地銀が5行あり、この数は全国で単独首位です。
第一地銀である福岡銀行、西日本シティ銀行、筑邦銀行、北九州銀行及び第二地銀の福岡中央銀行です。
主要指標は下記表のとおりです。福岡銀行、西日本シティ銀行が大きく抜けています。
福岡銀行 | 対福岡中央銀行比 | 西日本シティ銀行 | 対福岡中央銀行比 | 筑邦銀行 | 対福岡中央銀行比 | 北九州銀行 | 対福岡中央銀行比 | 福岡中央銀行 | |
経常収益(H29.3) | 172,772百万円 | 17.8 | 136,484百万円 | 14.1 | 12,902百万円 | 1.3 | 8,776百万円 | 0.9 | 9,698百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 58,938百万円 | 46.3 | 27,358百万円 | 21.5 | 953百万円 | 0.7 | 2,168百万円 | 1.7 | 1,272百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 53.4% | – | 72.3% | – | 90.1% | – | 80.8% | – | 83.9% |
経常損益(H29.3) | 60,156百万円 | 59.6 | 33,916百万円 | 33.6 | 1,274百万円 | 1.3 | 5,544百万円 | 5.5 | 1,009百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 8.4% | – | 8.7% | – | 7.8% | – | 11.0% | – | 7.6% |
従業員(直近) | 3,724名 | 7.1 | 3,492名 | 6.6 | 657名 | 1.2 | 500名 | 0.9 | 528名 |
県内貸出シェア(H29.3) | 33% | 26% | 2% | 4% | 2% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 全行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)福岡銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、貸付条件変更先のうち計画なし先の割合が9割以上と高いです(当該割合は筆者算定)。他行においても計画なし先の割合は高いことが多いのですが、当行は際立っています。
選択ベンチマークは6項目です。項目数は決して多くありませんが、重要な項目は網羅されています。
数値面では、地元中小企業与信先のうち、無担保融資割合が57%と高いです。他行平均は30%程度です。
独自ベンチマークはありません。
(2)西日本シティ銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、事業性評価融資の偏りが大きいです。全体に占める割合が、他行はふつう先数で10%、残高ベースで20%程度であるところ、当行では各3%、35%となっています。
選択ベンチマークは8項目です。担保・保証に依存しない融資関連は欲しいです。一方、ファンド活用数はやや珍しい項目です。
独自ベンチマークはありません。
(3)筑邦銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では西日本シティ銀行と同様、事業性評価融資の偏りが大きいです。全体に占める割合が先数で5%、残高ベースで27%となっています。
選択ベンチマークは4項目です。西日本シティ銀行と同様、担保・保証に依存しない融資関連は欲しかったです。
独自ベンチマークはありません。
(4)北九州銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面の特筆事項はありません。
選択ベンチマークは12項目です。重要な項目はおおむね掲載されています。
数値面では、全取引先数に占めるメイン先の割合が33%と低めです。他行では45%程度が多いです。
独自ベンチマークはありません。
(5)福岡中央銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、メイン先のうち経営指標が改善した割合が44%と低めです。他行では7割前後が多いです。
また、貸付条件変更先のうち、計画なし先の割合も98%とかなり高くなっています。
さらに、事業性評価融資の割合も、先数で1%、残高ベースで9%と低くなっています。
選択ベンチマークは4項目です。担保・保証に依存しない融資関連,本業支援関連はあった方がよかったでしょう。
数値面の特筆事項はありません。
独自ベンチマークは「中小企業向け融資を行っている貸出先数・貸出残高、及び、全貸出先数・貸出残高に占める割合」です。中小企業をターゲットにしている姿勢が明確です。
3.定性面の比較
(1)福岡銀行
福岡銀行の経営計画はふくおかフィナンシャル・グループ(福岡銀行・熊本銀行・親和銀行)として策定された「ザ・ベストリージョナルバンクを目指して」です。十八銀行との統合の件が取り沙汰されていますが、計画には織り込んでおりません。
特徴的な点は「広域展開型地域金融グループ」として、地元を「九州」と位置付けている点です。基本戦略は「ビジネスモデルの進化」「人財力の強化」「グループ総合力の発揮」「強固なブランド力の構築」です。
金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての説明はありません。
個々のベンチマークの説明においては、ベンチマークの推移を用いながら経営方針が実現されていると説明するもので、説得力がありました。例えば、地元中小企業融資先の非保全率の推移を用いながら、担保・保証に過度に依存しない融資が増えている点を説明しています。
(2)西日本シティ銀行
西日本シティ銀行の経営計画は「飛翔2020 ~知恵をしぼろう~」です。基本戦略は「金融サービスの向上」「収益体質の強化」「組織力の強化」「グループ経営の高度化」といった標準的なものです。
金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての記載はありません。また、全体的に個々のベンチマークについての説明も少ないと感じました。
(3)筑邦銀行
筑邦銀行の経営計画の基本方針は「営業基盤の拡充」「地域創生への貢献」「経営課題への的確な対応」です。
金融仲介機能のベンチマークは地域密着型金融の推進をする際の自主点検・自主評価のための活用ツールと位置付けています。個々のベンチマークの説明は非常にあっさりとしており、もう少し丁寧に説明しても良いと思いました。
(4)北九州銀行
北九州銀行の経営計画は山口フィナンシャルグループとして策定されています。そのため、広島県編(第18弾)、山口県編(第22弾)で述べたことを繰り返します。特徴的な点は、基本目標が「金利競争からの脱却」「プロダクト・アウトからの脱却」です。両者はどの銀行も課題とは思いつつも、正面から取り組みにくいテーマですので評価できます。
金融仲介機能のベンチマークは金融仲介の取組みの自己点検・自己評価のツールとして活用・公表するとあります。しかしながら、見せ方としては、掲載しているベンチマークが順番に羅列されているだけであり、特に定性的な説明はありません。もっと効果的にベンチマークを説明することはできたのではないでしょうか。
(5)福岡中央銀行
福岡中央銀行の経営計画における基本方針は地域貢献、収益力強化、活力ある組織作りです。
金融仲介機能のベンチマークは地域経済活性化へ貢献するための活用ツールとしています。個々のベンチマークの説明もやはりあっさりしており、具体的な取り組みや事例とともに説明すれば、もっとわかりやすくなるのではと思いました。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①福岡銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
②西日本シティ銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
19 M&A支援先数
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
21 事業承継支援先数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
③筑邦銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数
④北九州銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
15 メイン取引先のうち、経営改善提案を行っている先の割合
16 創業支援先数(支援内容別)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
28 中小企業に対する経営人材・経営サポート人材・専門人材の紹介数(人数ベース)
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
⑤福岡中央銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
10 中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
独自ベンチマーク
1 中小企業向け融資を行っている貸出先数・貸出残高、及び、全貸出先数・貸出残高に占める割合
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
福岡銀行
西日本シティ銀行
筑邦銀行
北九州銀行
福岡中央銀行
(3)各行における経営計画
福岡銀行
西日本シティ銀行
筑邦銀行
北九州銀行
福岡中央銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。