金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第33弾:大阪府編~
目次
1.大阪府の地銀
大阪府は天下の台所と呼ばれており、卸売業・小売業が非常に盛んです。また、パナソニックや大和ハウス工業、住友電気工業もあり、製造業も盛んです。
大阪府には地銀が4行あり、この数は全国で福岡県に次いで二位です。
第一地銀である近畿大阪銀行、池田泉州銀行、第二地銀の関西アーバン銀行及び大正銀行です。
大阪の地銀は金融グループが若干複雑です。
近畿大阪銀行はりそなグループに属しています。
池田泉州銀行は独自の池田泉州ホールディングス傘下です。
関西アーバン銀行は現在三井住友フィナンシャルグループに属していますが、平成31年4月を目途に近畿大阪銀行と合併し、りそな系である関西みらいフィナンシャルグループ下の関西みらい銀行となる予定です。また、現在三井住友フィナンシャルグループ傘下のみなと銀行(兵庫県)も関西みらいフィナンシャルグループに属する予定です。
大正銀行は徳島銀行、香川銀行と形成するトモニホールディングスに属しています。
主要指標は下記表のとおりです。大阪ではメガバンクのシェアが50%ほどあり、他県ほど地銀の存在感は強くありません。
近畿大阪銀行 | 対大正銀行比 | 池田泉州銀行 | 対大正銀行比 | 関西アーバン銀行 | 対大正銀行比 | 大正銀行 | |
経常収益(H29.3) | 58,515百万円 | 6.4 | 87,945百万円 | 9.6 | 77,416百万円 | 8.4 | 9,169百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | – | – | 9,109百万円 | 8.1 | 18,579百万円 | 16.5 | 1,124百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 91.8% | – | 83.6% | – | 69.4% | – | 85.1% |
経常損益(H29.3) | 6,564百万円 | 6.0 | 16,396百万円 | 15.0 | 17,713百万円 | 16.2 | 1,096百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 11.5% | – | 10.6% | – | 6.3% | – | 6.2% |
従業員(直近) | 2,124名 | 6.3 | 2,471名 | 7.3 | 2,501名 | 7.4 | 338名 |
県内貸出シェア(H29.3) | 5% | 6% | 5% | 1% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 全行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)近畿大阪銀行
共通ベンチマークは4つ掲載しています。
選択ベンチマークは15項目です。重要な項目は網羅されています。
数値面では本業支援先数が2,187件、ソリューション提案件数が3,226件と多いです。また、販路開拓支援先数も1,664件と多くなっています。
独自ベンチマークはありません。
(2)池田泉州銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、まず創業支援件数が3,957件と非常に多いです。与信先に占める割合では16%となりますが、他行は3%程度が平均ですので多さが分かると思います(割合は筆者算定)。また、事業性評価融資の割合も高いです。他行は先数で10%、残高ベースで20%程度ですが、当行は各37%、48%です。
選択ベンチマークは17項目です。こちらも数が多いうえに、重要な分野も掲載されています。
数値面では本業支援先数、ソリューション提案先数、創業支援先数(支援内容別)が多くなっています。これは関連する共通ベンチマークが高いことによるものと思われます。また、事業再生支援先における実抜計画策定先数も多いです。H29.3期で478件ですが、これの条件変更先に占める割合は45%です。他行は一桁台もしくは10%台が多いので、目を引く数値です。
独自ベンチマークは7件あります。ユニークな項目が多いのですが、特に産学連携件数が地域貢献を示す指標として好印象でした。
(3)関西アーバン銀行
共通ベンチマークは1つです。他の4つも載せるべきですが、唯一載せた事業性評価融資の割合は高いです。先数、残高ベースで各30%,52%となっています。
選択ベンチマークは4項目です。M&A支援件数、事業承継支援件数はあるものの、本業支援や経営者保証ガイドライン活用先数、担保保証に依存しない融資などの項目は欲しかったです。
数値面では、事業承継支援先数が449件とこの規模の銀行にしては多いのではないかと思いました。
独自ベンチマークは3項目です。池田泉州銀行と同様、産学官連携件数は良いと思います。
(4)大正銀行
共通ベンチマークは3つ掲載しています。
数値面ではメイン先数のうち、経営指標が改善した割合が40%と低いです。他行平均は70%前後です。
選択ベンチマークは3項目です。重要な項目では経営者保証ガイドラインの活用先数でしょうか。質量ともにさらなる充実が求められます。
独自ベンチマークは3項目です。どれもユニークのため面白いです。
3.定性面の比較
(1)近畿大阪銀行
近畿大阪銀行の経営計画はりそなホールディングスとして作成された「Change to the “Next”」です。基本戦略はチャネルの充実、ソリューションの強化、地域密着重視です。
金融仲介機能のベンチマークの見せ方はテーマごとに取り組みとセットで説明する非常にオーソドックスな方法です。悪くはないのですが、やはりここはりそなグループとの連携や地域の特性を活かした独自ベンチマークを設定し、その説明があった方がインパクトが強かったでしょう。
(2)池田泉州銀行
池田泉州銀行の経営計画では中小企業への貸出と非金利収益の強化を重視しています。この二つは目標経営指標や戦略テーマとされるなど、強化姿勢が明確です。
金融仲介機能のベンチマークも具体的な取り組みや事例と共に大変詳細に説明されています。独自ベンチマークの説明もあり、非常に分かりやすいです。欲を言えば、過年度からの推移について分析結果等があればなお良かったかもしれません。
(3)関西アーバン銀行
関西アーバン銀行の経営計画の基本テーマは「お客さまに選ばれる銀行」「安定した収益基盤の確立」「健全な企業基盤の確立」です。SMBCグループとしての高度な金融サービスの提供を打ち出しています。
金融仲介機能のベンチマークについては、独自ベンチマークがあるのは評価できるのですが、全体的に質量ともにあまりにも少ない印象です。情報の充実が求められます。
(4)大正銀行
大正銀行の経営計画は「Attack! Taisho」です。トモニホールディングスにおける連携が随所で強調されています。
金融仲介機能のベンチマークは比較的オーソドックスな見せ方ですが、定性情報に偏っている印象です。例えば、項目としては担保保証に過度に依存しない融資への取り組みや経営改善・事業再生というテーマがあるわけです。しかし、これらのベンチマークがなくて文章だけの説明のみだとやはり説得力に欠けてしまうのではないでしょうか。定性情報とベンチマークという定量情報のミックスがやはり効果的です。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①近畿大阪銀行
共通ベンチマーク
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
独自ベンチマーク
なし
②池田泉州銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
15 メイン取引先のうち、経営改善提案を行っている先の割合
16 創業支援先数(支援内容別)
17 地元への企業誘致支援件数
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
21 事業承継支援先数
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
独自ベンチマーク
1 経営改善提案を行っている先数
2 産学連携件数
3 技術マッチング(引合せ)件数
4 ニュービジネス助成金の最近3年間の応募・受賞件数とこれまでの累計
5 コンソーシアム研究開発助成金の最近3年間の応募・採択件数とこれまでの累計
6 公的機関による認証等の支援件数
7 合同企業説明会の開催回数
③関西アーバン銀行
共通ベンチマーク
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
独自ベンチマーク
1 事業サポート先数
2 ビジネスマッチング紹介件数・成約件数
3 産学官連携に関する取組件数・金額
④大正銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合
16 創業支援先数(支援内容別)
独自ベンチマーク
新規開業の医者(個人)を支援した件数
地方公共団体や提携業者と連携したセミナーの開催時における空き家対策の相談件数
「家づくり・街づくり」に関連するベンチマーク(住宅シェア、融資取組した個数など)
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
近畿大阪銀行
池田泉州銀行
関西アーバン銀行
大正銀行
(3)各行における経営計画
近畿大阪銀行
池田泉州銀行
関西アーバン銀行
大正銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。