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金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る ~第46弾:埼玉県編~

1.埼玉県の地銀

埼玉県は地理的な理由から製造業が盛んです。

埼玉県には都市銀行である埼玉りそな銀行と第一地銀の武蔵野銀行があります。

埼玉りそな銀行が属するりそなホールディングスの傘下には、同じ都市銀行であるりそな銀行もあります。ややこしいですが、埼玉りそな銀行は埼玉銀行という都市銀行の流れを汲んでいます。そのため、埼玉県内を地盤としていても都市銀行に分類されます。りそなホールディングスには、りそな銀行以外に近畿大阪銀行もあります。また、大阪の関西アーバン銀行及び兵庫県のみなと銀行も同グループに加わる予定です。

武蔵野銀行は千葉銀行と「千葉・武蔵野アライアンス」という包括的な提携をしており、地銀同士の新たな提携方法だと注目されています。

主要指標は下記表のとおりです。埼玉りそな銀行が武蔵野銀行に規模面では勝っています。

埼玉りそな銀行対武蔵野銀行比武蔵野銀行
コア業務純益(H29.3)*1164,173百万円2.370,903百万円
経常収益(H29.3)13,923百万円
修正OHR(H29.3)*271.2%
経常損益(H29.3)49,738百万円4.311,618百万円
自己資本比率(H29.3)*311.7%9.2%
従業員(直近)3,239名1.42,285名
県内貸出シェア(H29.3)34%14%
*1 臨時のものを除いた、銀行本業の収益性を示す指標
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 両行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。

2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較

では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。

(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。

また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)

(1)埼玉りそな銀行

共通ベンチマークは5つ掲載しています。 

数値面では、事業性評価融資の割合がやや高めでしょうか。全体に占める与信先数の割合が当行では24%のところ、平均は10%程度です。

選択ベンチマークは5項目です。M&A支援件数や事業承継支援件数といった項目は載せていますが、もう少し重点分野に関連する項目を充実させてもよかったとは思います。

数値面では、地元への企業誘致支援件数が183件と多いです。東京に近いという地理的条件が恵まれている面もあるでしょうが、この数値は掲載行の中でトップです。

独自ベンチマークはありません。

(2)武蔵野銀行

共通ベンチマークは5つです。

選択ベンチマークは16項目です。特に、担保保証に依存しない融資関連の項目が多いです。

数値面では、無担保融資残高の割合が5割前後と多いです。平均は3割程度です。また、埼玉りそな銀行と同様、企業誘致支援件数も133件と多いです。

独自ベンチマークは2項目です。ABLは独自ベンチマークとしてはややオーソドックスですが、事業性評価融資への取組指標として非常に良いベンチマークです。

3.定性面の比較

(1)埼玉りそな銀行

埼玉りそな銀行の経営計画はりそなホールディングスとして作成された「Change to the “Next”」です。基本戦略はチャネルの充実、ソリューションの強化、地域密着重視です。

金融仲介機能のベンチマークの見せ方としては、大変シンプルで見やすいです。しかし、具体的な取り組みをはじめとして定性情報がやや薄い印象です。もっと地域の特性についての取組みやベンチマークがほしかったところです。

(2)武蔵野銀行

武蔵野銀行の経営計画は「MVP 2/3」です。これは、長期ビジョンであるMVP(Musashino Value-making Plan)におけるフェーズ2であることを意味しています。MVPでは地域No.1銀行を目指しています。「MVP 2/3」の基本戦略は成長戦略の加速、成長戦略と創造戦略の融合、経営管理態勢の強化です。二つ目が面白そうなので、具体的な取り組みの説明がほしかったです。

金融仲介機能のベンチマークは、豊富な取り組みと共に説明されています。しかし、もっとベンチマークを活かすことはできたのではないかと思います。例えば、ローカルベンチマークによる企業診断をしているのですから、選択ベンチマークとしてこれに関連する項目を掲載することはできたでしょう。また、知財ビジネス評価書を活用した融資もしているのですから、独自ベンチマークとして掲載することもできたでしょう。

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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。

(参考)

(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク

①埼玉りそな銀行

共通ベンチマーク

1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移

2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況

3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数

4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)

5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)

選択ベンチマーク

7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)

17 地元への企業誘致支援件数

19 M&A支援先数

21 事業承継支援先数

23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合

独自ベンチマーク

なし

②武蔵野銀行

共通ベンチマーク

 1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移

2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況

4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)

5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)

選択ベンチマーク

 1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)

2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)

7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)

8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)

11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)

12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合

14 ソリューション提案先数及び融資額、及び、全取引先数及び融資額に占める割合

16 創業支援先数(支援内容別)

17 地元への企業誘致支援件数

18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)

19 M&A支援先数

20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数

21 事業承継支援先数

39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数

42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数

43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数

独自ベンチマーク

1 ABL融資取扱い件数

2 ABL融資残高

(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク

埼玉りそな銀行

http://www.saitamaresona.co.jp/pdf/sr_torikumi1706.pdf

武蔵野銀行 

http://www.musashinobank.co.jp/company/rsbanking/pdf/newproject62.pdf

(3)各行における経営計画

埼玉りそな銀行

http://www.resona-gr.co.jp/holdings/about/strategy/pdf/20170428_2a.pdf

武蔵野銀行

http://www.musashinobank.co.jp/company/mid_termplan/

(4)各行における指標の引用元

基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。

※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。