経営力向上計画の手引き
01.概要
経営力向上計画は、労力の割にメリットが多いコスパの良い計画です。メリットには税金軽減、補助金加点、金融支援などがあります。補助金と違い、採択・不採択ではなく不備がなければ認定される(不備があれば指摘を受けて修正すればOK)ので、メリットある会社は是非認定を受けましょう。
02.検討したい会社
本計画を検討した方が良い会社は以下です。
事業再構築補助金を検討している企業
事業再構築補助金は補助額が大きく、大きな投資がなされる可能性があります。一方、経営力向上計画による税制措置においては一定の設備を購入すれば税額控除や即時償却のメリットを得ることができます。事業再構築補助金における投資においてこれらの一定の設備を購入すれば、事業再構築補助金を受領し、かつ経営力向上計画の税制措置についても両方を受けることができます。そのため、事業再構築補助金の申請を予定している会社は経営力向上計画についても健闘しても良いでしょう。
事業承継を予定している企業
事業承継を予定している場合、本計画が認定されることにより一部税金の軽減や法的な特例を受けられる可能性があります。また、後述の事業承継補助金における加点要素にもなっていますので、事業承継予定者にとっては恩恵の多い計画です。
補助金を予定している企業
一部の補助金(小規模事業者持続化補助金、事業承継・引き継ぎ補助金)における加点要素になっています。今後このような補助金が増える可能性もあるので、補助金を利用を検討している企業は予め申請しておくと良いでしょう。
入門的な計画を作りたい企業
本計画は他の計画に比べ、かなり分量が少なく難易度が低いものになっています。そのため、計画を作ったことがなく、計画を作るということを体験したい企業にはうってつけの計画と言えるでしょう。
03.メリット
本計画が認定されれば様々な優遇措置があります。ここでは主なものを紹介します。
税制措置
①中小企業強化税制
一定の設備を新規取得し、指定事業の用に供した場合、即時償却又は取得価額の10%(資本金3000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用できるものです。
対象設備は、機械装置(160万円以上)、工具(30万円以上)、器具備品(30万円以上)、建物附属設備(60万円以上)、ソフトウェア(70万円以上)である必要があります。
②事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例
合併、会社分割又は事業譲渡を通じて他の中小企業から不動産を含む事業用資産等を取得する場合、不動産の権利移転について生じる登録免許税、不動産取得税の軽減を受けることができます。
登録免許税においては、事業譲渡による移転の登記なら2.0%→1.6%、合併によるものであれば0.4%→0.2%、分割によるものであれば2.0%→0.4%に軽減されます。
不動産取得税においては、事業譲渡の場合のみですが、不動産価格の1/6相当額を課税標準から控除して税額をされます。
③中小企業事業再編投資損失準備金
中小企業者が事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた場合、当該計画に基づき株式等を取得する場合において、株式等の取得価額として計上する金額の一定割合の金額を準備金として積み立て(7割が限度)たときは、その積み立てた金額はその事業年度において損金算入できます。積み立てた準備金は、帳簿価額の減損等の取崩要件に該当する行為を行った場合は、取り崩して益金に算入され、5年経過後はその後の5年間にかけて均等額で準備金を取り崩し、益金に算入されます。
④所得拡大促進税制
給与等支給総額を前年比で2.5%以上引き上げた場合、給与等総額の増加額の25%を税額控除できます。
金融措置
①日本政策金融公庫による融資
日本政策金融公庫から、通常の枠とは別に低利の融資を受けることができます。貸付限度額は、国民生活事業が7,200万円、中小企業事業が7億2,000万円になります。
②信用保証協会による保証
民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
法的支援
①許認可承継の特例
一定の許認可事業を承継する場合には、承継される側の事業者から、当該許認可に係る地位をそのまま引き継ぐことができます。
②事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例
通常であれば個別に債権者から同意を得る必要があるものを、企業が債権者に対して通知(催告)し、1ヵ月以内に返事がなければ債権者の同意があったものとみなすことができ、より簡略な手続きにより債務を移転することができます。
一部補助金における加点要素
本計画はいくつかの補助金における加点項目になっています。具体的には、小規模事業者持続化補助金、事業承継・引き継ぎ補助金です。本計画はあまり労力がかからないので、これらの補助金を利用する場合には予め本計画の認定を受けておきましょう。一方、ものづくり補助金の加点にはならないので注意しましょう。
04.注意点
中小企業強化税制を使う場合、要件や手続きが必要
①設備には要件がある
税制措置を受けるためには、購入する設備が下記の要件を満たす必要があります。
A類型:生産性向上設備:生産性が旧モデル比平均1%以上向上
B類型:収益力強化設備:投資収益率が年平均5%以上
C類型:デジタル化設備:可視化、遠隔操作、自動制御化のいずれか
D類型:経営資源集約化に資する設備:修正ROAまたは有形固定資産の回転率が一定割合以上
②類型によって事前確認が必須
B,D類型の場合は公認会計士又は税理士による事前確認書、C類型の場合は認定支援機関による事前確認書の発行が必要です。
③証明書・確認書が必要が必要
各類型ごとに確認書を取得する必要があります。A類型は工業会等が証明書を、B~D類型は経済産業局が確認書を発行します。
④スケジュールに注意
設備を取得し税制優遇を受けるには、経営力向上計画の認定を受けた後に対象設備を取得するのが原則です。計画から認定までの標準処理期間は約30日とされています。そのため、他の計画と同様にスケジュールに余裕を持って準備することが大切です。ただし、例外もあり設備を取得した後に経営力向上計画を申請する場合には、設備取得日から60日以内に経営力向上計画が受理される必要があります。この場合、年度内に認定を受ける必要があります。
経営力向上計画のように、設備取得後に計画申請を認める特例はありません。ただし、認定前までに工業会の証明書が取得できなかった場合でも、賦課期日(1月1日)までに誓約書および工業会証明書を追加提出することで税制措置を受けることが可能です。
05.分量と記載項目
記載の分量はA4縦3,4ページ程度です。他の計画と比べ、分量はかなり少ないです。記載項目は以下になります。
1 名称等
2 事業分野と事業分野別指針名
3 実施時期
4 現状認識
5 経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標
6 経営力向上の内容
(1)現に有する経営資源を利用する取組
(2)他の事業者から取得した又は提供された経営資源を利用する取組
(3)具体的な実施事項
7 経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法
(1) 具体的な資金の額及びその調達方法
(2) 純資産の額が零を超えること
(3) EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること
8 経営力向上設備等の種類
9 特定許認可等に基づく被承継等中小企業者等の地位(事業承継等を行う場合のみ)
10 事業承継等により、譲受け又は取得する不動産の内容(事業承継等を行う場合のみ)
06.費用の相場
事務所によって大きく異なりますが、10万円前後が多いようです。
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07.まとめ
経営力向上計画は分量も少なく、メリットが多いためオススメの計画です。税制措置を適用するには事前確認が必要だったり証明書・確認書が必要だったりしますが、即時償却や税額控除は税制措置の中でも強力な効果です。是非検討することをおすすめします。