金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る~第10弾:長野県編~
1.長野県の地銀
長野県には第一地銀である八十二銀行と第二地銀である長野銀行があります。
主要指標は下記表のとおりです。他県と同様、第一地銀が第二地銀を規模面で圧倒しています。
八十二銀行 | 対長野銀行比 | 長野銀行 | |
経常収益(H29.3) | 169,558百万円 | 9.6 | 17,709百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 25,100百万円 | 14.8 | 1,693百万円 |
修正OHR(H29.3)*2 | 69.7% | – | 86.9% |
経常損益(H29.3) | 34,205百万円 | 10.4 | 3,278百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 20.0% | – | 10.9% |
従業員(直近) | 3,178名 | 4.7 | 672名 |
県内貸出シェア(H27.3) | 40% | - |
*2 経費÷業務粗利益で算出。銀行の効率性を示す代表的な指標。低い方が良い。
*3 八十二銀行は国際基準、長野銀行は国内基準。国際基準では8%以上、国内基準では4%以上が義務付けられています。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください)
(1)八十二銀行
共通ベンチマークは五つすべて掲載しています。
選択ベンチマークは28項目です。オーソドックスな項目に加えて、無担保与信先数など担保・保証に過度に依存しない融資項目関連が4項目と多いです。また、珍しい項目としては、「取引先への平均接触頻度、面談時間」、「行員の業績評価のうち本業支援の割合」や「本業支援関連の取締役会における検討頻度」などでしょうか。
数値面では事業性評価関連のベンチマークが前年から大きく増加した点が目立ちます。また、「事業清算に伴う債権放棄先数、及び、債権放棄額」の数値も他県と比べて大きいようです。
独自ベンチマークは「営業担当者が作成・提案した課題解決提案書作成先数」など5項目です。
面白いと思ったのは「条件変更先で経営改善計画がない先について、経営改善支援をしている取引先数」です。実は、他の銀行においても、条件変更先のうち大部分の貸出先は計画を策定せず、不調先に分類されています。この理由は、おそらく事業性の観点から合理的な計画を策定できない、または費用対効果の観点から難があることでしょう。それゆえに、経営改善計画を作成しないでも経営改善支援をするのは好感が持てる姿勢です。
(2)長野銀行
共通ベンチマークは五つすべて掲載しています。
選択ベンチマークは「メイン取引先数」など2項目です。
独自ベンチマークは「次世代経営者育成セミナー参加者数」など3項目です。ユニークなのは「当行のお取引事業先で構成された当行後援団体(22団体)の会員総数」ですね。
3.定性面の比較
八十二銀行の中期経営計画(平成27年度~平成29年度)は「地域活力創造銀行への変革」です。特徴的な点は、企業・創業支援や企業誘致数、環境保全活動の強化といった内容及びそれに数値目標を設定している点です。
金融仲介機能のベンチマークとの関連は冒頭にさらりと述べられているのみです。ベンチマークの説明においても、特段の定性情報はありません。
長野銀行の中期経営計画(平成28年度~平成30年度)で特徴的な点は、規模の拡大をはっきり明示していることでしょうか。数値目標としても、法人取引先数や個人取引先数の増加を掲げています。
金融仲介機能のベンチマークとの関連ですが、中期経営計画の基本方針の一つである「地域密着型金融機能の強化」に基づき設定されています。資料の構成としても、各テーマに基づき説明されており、分かりやすいものです。共通ベンチマーク及び選択ベンチマークの数自体は少ないものの、独自ベンチマークには中期経営計画の指標も用いられており、重点分野がよく分かります。また、テーマ別に説明した方が、ベンチマーク以外の情報も自然な文脈で盛り込みやすいだろうという印象です。
まとめです。
ベンチマークを単独で公表するのではなく、全体の方針の中に位置づけ、それとの関連において説明をすることでより分かりやすい印象を受けます。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)二行が共通して掲載している項目
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
10 中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合
16 創業支援先数(支援内容別)
24 事業再生支援先におけるDES・DDS・債権放棄を行った先数、及び、実施金額(債権放棄額にはサービサー等への債権譲渡における損失額を含む、以下同じ)
33 運転資金に占める短期融資の割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数
(2)一行のみが掲載している項目
①八十二銀行のみが掲載している項目
選択ベンチマーク
4 取引先への平均接触頻度、面談時間
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
8 地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
17 地元への企業誘致支援件数
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数
21 事業承継支援先数
22 転廃業支援先数
28 中小企業に対する経営人材・経営サポート人材・専門人材の紹介数(人数ベース)
30 金融機関の本業支援等の評価に関する顧客へのアンケートに対する有効回答数
34 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している支店従業員数、及び、全支店従業員数に占める割合
35 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している本部従業員数、及び、全本部従業員数に占める割合
36 取引先の本業支援に関連する評価について、支店の業績評価に占める割合
37 取引先の本業支援に関連する評価について、個人の業績評価に占める割合
40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
46 事業計画に記載されている取引先の本業支援に関連する施策の内容
48 取引先の本業支援に関連する施策の達成状況や取組みの改善に関する取締役会における検討頻度
独自ベンチマーク
1 当行メイン先における無担保与信額
2 営業担当者が作成・提案した課題解決提案書作成先数
3 成長支援先数、及び、その融資額と全取引先数に占める割合
4 条件変更先で経営改善計画がない先について、経営改善支援をしている取引先数
5 外部企業等への当行行員の出向者数
②長野銀行のみが掲載している項目
選択ベンチマーク
2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)
15 メイン取引先のうち、経営改善提案を行っている先の割合
独自ベンチマーク
1 中期経営計画の重要業績評価指標(KPI)
2 当行の関係した商談会への取引先参加数
3 次世代経営者育成セミナー参加者数
4 当行のお取引事業先で構成された当行後援団体(22団体)の会員総数
(3)各行における金融仲介機能のベンチマーク
八十二銀行(平成29年7月25日公表)
長野銀行(公表日不明)
(4)各行における中期経営計画
八十二銀行(平成27年度~平成29年度)
長野銀行(平成28年度~平成30年度)
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。