経営を深め、相談する場

金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る ~第39弾:熊本県編~

1.熊本県の地銀

熊本県は農業の比率が多くなっています。代表的な農産物としては、い草、トマト、スイカなどが全国首位です。

熊本県には第一地銀の肥後銀行、第二地銀の熊本銀行があります。

肥後銀行は鹿児島銀行と九州フィナンシャルグループを形成し、熊本銀行は福岡銀行、長崎県の親和銀行とふくおかフィナンシャルグループを形成しています。

主要指標は下記表のとおりです。他県同様、第一地銀である肥後銀行が第二地銀である熊本銀行を規模に勝っています。

肥後銀行対熊本銀行比熊本銀行
経常収益(H29.3)76,900百万円3.223,769百万円
コア業務純益(H29.3)*112,870百万円2.55,234百万円
修正OHR(H29.3)*275.4%72.7%
経常損益(H29.3)12,300百万円4.62,678百万円
自己資本比率(H29.3)*311.5%9.8%
従業員(直近)2,236名2.4932名
県内貸出シェア(H29.3)46%22%
*1 臨時のものを除いた、銀行本業の収益性を示す指標
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 両行とも国内基準。国内基準では4%以上が義務付けられている。

2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較

では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。

(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。

また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)

(1)肥後銀行

共通ベンチマークは5つ掲載しています。 

数値面では平均に近い項目が多いです。

選択ベンチマークは13項目です。重要な項目は概ね記載されていますが、経営者保証ガイドラインの活用先数は他行も載せていることが多いのであった方がよかったでしょう。

数値面では、メイン先数の全体に占める割合が76%と高いです。他行は40%台が平均です。一方、本業支援担当者の本部従業員に占める割合は4%と低いです。掲載行は多くありませんが、10%程度が平均です。

独自ベンチマークは4つです。熊本地震についてのテーマに基づいており、非常に良いです。

(2)熊本銀行

共通ベンチマークは5つです。    

数値面では事業性評価融資の割合が偏っています。全体に占める割合が先数で3%のところ、残高ベースで20%と、残高の多い先を重点的に融資していることが分かります(他行平均は各10%,20%程度)。

選択ベンチマークは7項目です。数こそ多くありませんが、重要な項目は掲載されています。

数値面では、地元中小企業に占める無担保融資残高割合が 52%と高いです。他行平均は30%程度です。

独自ベンチマークはありません。

3.定性面の比較

(1)肥後銀行

肥後銀行の経営計画では経営統合効果の最大化を謳っている点が特徴的です。すなわち、平成27年に経営統合した鹿児島銀行との統合効果を、規模拡大、多角化、リスクテイク力強化、効率化という視点で最大化することを目指しています。

金融仲介機能のベンチマークは取組みとベンチマークがバランス良く配置され、非常に見やすいものです。また、熊本地震への対応についても独自ベンチマークを複数設け、しっかりと説明しています。

(2)熊本銀行

熊本銀行の経営計画はふくおかフィナンシャルグループとして策定されています。そのため、福岡県編(第29弾)での福岡銀行での記載を再掲します。

ふくおかフィナンシャルグループの経営計画は策定された「ザ・ベストリージョナルバンクを目指して」です。十八銀行との統合の件が取り沙汰されていますが、計画には織り込んでおりません。

特徴的な点は「広域展開型地域金融グループ」として、地元を「九州」と位置付けている点です。基本戦略は「ビジネスモデルの進化」「人財力の強化」「グループ総合力の発揮」「強固なブランド力の構築」です。

金融仲介機能のベンチマークの位置づけについての説明はありません。

個々のベンチマークの説明においては、ベンチマークの推移を用いながら経営方針が実現されていると説明するもので、説得力がありました。例えば、地元中小企業融資先の非保全率の推移を用いながら、担保・保証に過度に依存しない融資が増えている点を説明しています。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。

(参考)

(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク

①肥後銀行

共通ベンチマーク

1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移

2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況

3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数

4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)

5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)

選択ベンチマーク

1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)

2 メイン取引(融資残高1位)先数の推移、及び、全取引先数に占める割合(先数単体ベース)

7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)

9 地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)

16 創業支援先数(支援内容別)

19 M&A支援先数

20 ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数

21 事業承継支援先数

35 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している本部従業員数、及び、全本部従業員数に占める割合

39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数

40 外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数

42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数

43 取引先の本業支援に関連する中小企業支援策の活用を支援した先数

独自ベンチマーク

1  グループ補助金構成企業把握先割合

2 金融・非金融サポート実践先割合

3 マスコミを通じたお客様・地域の復興活動支援数

4 国内・海外商談会出店社数

②熊本銀行

共通ベンチマーク

1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移

2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況

3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数

4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)

5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)

選択ベンチマーク

7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)

11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)

16 創業支援先数(支援内容別)

18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)

19 M&A支援先数

21 事業承継支援先数

23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合

独自ベンチマーク

なし

(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク

肥後銀行

https://www.kyushu-fg.co.jp/company/pdf/h2903_financial_intermediation_function.pdf

熊本銀行

https://www.kumamotobank.co.jp/idc/groups/k9999/documents/pdf/idc_047841.pdf

(3)各行における経営計画

肥後銀行

http://www.higobank.co.jp/company/plan/

熊本銀行

http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS07869/2dd95f1f/83b2/452d/870c/bb4061294c5b/140120160426467554.pdf

(4)各行における指標の引用元

基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。

※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。