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経営者の必修科目(第5回)〜会計のポイント〜

前回の借入については多くの経営者の方が苦手にしている分野です。一方、今回扱う会計は経営者間の格差が大きいテーマです。つまり、会計に詳しい経営者もいれば、そもそも簿記って何?という方もおられます。そのため、どのレベルに焦点を当てるかが重要になってきますが、ここでは「経営者の必修科目」というのがテーマなので、必要最低限押さえて欲しいポイントだけを説明することにします。

会計を知るメリット

会計の中身に入る前に、会計を知ることによるメリットについて説明したいと思います。

自社の実態を知ることができる→経営判断がしやすくなる

経営者が会計を学ぶ一番のメリットは自社の実態が把握できることでしょう。決算書を作成するのは顧問税理士ないし経理の方でしょうから、必ずしも経営者が決算書を正確に把握できているとは限りません。しかし、決算書は会計技術によって作成されたものです。そのため、高度な会計知識は不要ですが、最低限の会計知識がないと正しく把握することができません。

なぜ決算書の正しい把握が大切かというと、将来の経営判断をする際の基礎になる情報だからです。情報がないと経営判断もただの当てずっぽうになってしまいます。また、情報はあってもそれを正確に理解していなければ間違った経営判断がなされる可能性が高くなります。そうした事態を避け、正しく経営判断をするためには、正しく自社を理解することが必要であって、そのためには会計の知識が役に立つということです。

外部の自社への見方を理解できる→同じ目線で話せる

次に、外部の方が自社をどう見ているかを理解できるというメリットがあります。企業が外部の方と決算書を共有するケースは金融機関が多いと思われます。金融機関は決算書を元に企業の与信判断、つまり企業に対して貸出ができるか、できるとすればいくらまでか、担保をつけるかなどの判断をします。一般に金融機関の方はそれなりに会計の知識があります。融資の判断に必要だからです。そのため、経営者の方に会計の知識がないと、自社の決算書についての話なのに話が噛み合わなくなる可能性があります。よって、会計についてある程度の知識を持つことで金融機関の担当者と同じ目線で話せます。また、会計に詳しくない経営者の方はいわゆるどんぶり勘定であることが多いですが、これは金融機関が嫌う傾向の一つです。そのため、会計に知識があるということは金融機関から信頼を得やすいという効果もあります。

会計の構成要素とまずめざすべき目標

5つの構成要素

会計について知る上で、経営者の方に最低限知って欲しいのは5つの構成要素からなるということです。つまり、貸借対照表の項目である資産・負債・純資産の三つと、損益計算書の項目である収益・費用の二つの合計です。どのような取引であってもこの5つのどれかによって記帳(取引を帳簿に記録すること)されます。

利益を増やす

それを押さえた上で、経営者としてはどのように決算書を見れば良いか。まず目指すべきは上記の項目のうち収益から費用を引いた結果である利益を増やすことです。つまり収益となる取引の金額を増やし、費用となる取引の金額を減らすことを意識すべきということです。

現預金を増やす

次に、資産の項目である現預金を増やすことが大事です。一つ目の利益を増やした結果としても現預金は増えますが、他にも金融機関から借り入れたり、株主が出資するなどの方法があります。また、売掛金などの回収漏れをなくしたり、支払いサイトをなるべく遅らせるなどによっても増やすことができます。いずれにせよ、現預金が尽きた時は企業活動が終わる時とイコールになる可能性が高くなるので、現預金を増やすという目標を持つのは企業を長く存続させる上で大切になってきます。

なお、それぞれの構成要素については下記のリンクを参考にしてください。

  経営者の必修科目(第1回)〜損益計算書の見方と注目すべき指標〜

  経営者の必修科目(第2回)〜貸借対照表の見方と注目すべき科目〜

会計の特徴

取引発生と資金収支のタイミングのずれ

会計を理解するのが難しい理由の一つに、発生のタイミングと現預金が動くタイミングにズレがある点が挙げられるでしょう。もう少し正確に説明しますと、現預金が動くタイミングで取引を記録する考え方を現金主義、現預金が動くタイミングではなく現預金が動くことが確実になったタイミングで取引を記録する考え方を発生主義と呼びます。つまり、両方とも会計の考え方になります。しかし、現実には現金主義で記帳されている企業は非常に少ないと思いますので、ここでは発生主義を前提に考えます。つまり、取引が発生した時点と現預金が動くタイミングにズレがあるという考え方です。

この考え方は会計のコアになる部分です。つまり、会計の目的は企業の実態を正確に現すことにありますが、取引と現預金が動くタイミングのずれを調整するというのは、まさにこの目的のためになされているからです。実際、多くの取引は発生と現預金が動くタイミングがずれています。具体例を見ていきましょう。

具体例:発生 → 資金収支

売上:売掛金を計上した後に資金を回収します。

仕入:買掛金を計上し後に資金を支払います。

給与:未払費用を計上した後に資金を支払います。

税金:未払法人税等、未払消費税などの科目を計上した後に資金を支払います。

上記はいずれも取引発生時にいったん収益なり費用なりを計上します。ただ取引発生時には資金が動かないので資金が動くまでは売掛金や未払費用などの勘定を計上します。このような処理を経ることによって、収益・費用の計上額やタイミングが資金収支のそれと大きく異なっている場合でも企業の収益力を正確に記録することができるようになります。

減価償却費:資金収支 → 発生

もう一つ、会計を理解する上で避けて通れないのが減価償却費です。この科目も会計事象の発生と資金収支のタイミングのずれを調整するために考えられた会計用語です。

具体的に見ていきましょう。まず、生産性を上げるために10百万円の機械を設備投資したとします。仮にこれを一括で払うと仮定すれば、資金収支のタイミングは10百万円を払ったその一時点で終わります。費用もそのタイミングで10百万円計上すれば話は簡単なのですが、会計においてはそう考えません。そのような設備投資は複数年にわたって費用化するというのが会計の考え方です。なぜなら、費用というのは収益を得るのに必要なものであって、設備投資の収益への貢献は代金を支払った一時点ではなく複数年にわたると考えるからです。

具体例で説明した売上や給与は先に収益や費用が発生し、資金収支はその後のタイミングで行われますが、減価償却は逆になります。最初に資金の支払いがあって、その後複数年に渡り費用化されます。

上記の例で言えば、例えば機械の耐用年数が10年だとすると、最初に資産として機械が10百万円計上され、毎年1百万円の減価償却費(10百万円÷10年)を計上するにつれ機械の金額が減っていき、10年経って全額減価償却費として計上されたら機械としての価値がなくなるという処理になります。

減価償却費は損益計算書を見る上で非常に大切になってきます。なぜなら、資金が動くタイミングと費用が計上されるタイミングが大きく異なるためです。経営者の必修科目(第1回)〜損益計算書の見方と注目すべき指標〜でもくどいほど説明しましたが、企業の評価はどれだけの資金を獲得したかが大切になってきます。ここで、減価償却費が計上される元となる固定資産の代金は通常最初に全額支払います。つまり、資金への影響は最初だけということになります。そのため、資産の購入後に計上される減価償却費は資金の流出がないので、利益に減価償却費を加算して償却前の利益を計算することで、その企業が年間に稼いだ資金を正しく現すことができます。厳密には他の科目も多少のずれはあります。しかし、減価償却費が計上されるのは多額の建物や機械設備が多く、耐用年数も何十年にもわたることがあります。言い換えれば、発生と資金収支のずれが大きいということです。そのため、決算書の利益だけでは企業の資金獲得能力を正しく現すことができず、減価償却費を調整する必要があるのです。

まとめ

・会計を知ることによって、自社の理解が深まる→正しい経営判断ができる + 金融機関と同じ目線で話せるようになる

・会計の構成要素は貸借対照表の資産・負債・純資産と損益計算書の収益・費用の5つである。

・まずは利益を増やす、現預金を増やすことを目標に決算書を見ると良い。

・会計が難しい理由の一つは発生と資金収支のタイミングが違うから。取引ごとに押さえていけば理解しやすい。

・減価償却費は発生と資金収支のタイミングを調整するために生み出された会計用語である。損益計算書を見る時も減価償却費を加算した利益で見るべき。