経営者の必修科目(第6回)〜税金のポイント〜
今回は税金について経営者の方に知って欲しいポイントを解説します。もちろん細かい税務処理や税制は顧問税理の方が教えてくれるので経営者が精通する必要はありません。しかし、基本的な内容については経営に直結するので知っておいた良いでしょう。
目次
最低限抑えるべきこと
税金の種類
世の中にはたくさんの税金の種類があります。それらを全て知っている必要はありませんが、経営する中で出てくる税金の種類は覚えておきましょう。具体的には、法人税、住民税、事業税、消費税、固定資産税、印紙税、登録免許税、不動産取得税、所得税、相続税、贈与税です。一見数は多く見えませうが、おそらくほとんどの税金は会社を経営していれば一度は聞いたことがあるものばかりでしょう。これ以外にも酒税、たばこ税、自動車税などいくつかありますが、企業経営上ではあまり意識しなくても良いのではないかと思います。主要なものについてはのちほど個別に解説していきます。
税金は、納める先によって国税と地方税に分かれます。国税には所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税、印紙税、登録免許税などがあります。地方税には住民税、事業税、固定資産税、地方消費税、不動産取得税などがあります。
税額と納税のタイミング
税金の種類を知っておいた方が良いのは、税金の支払いが資金繰りに直接影響するからです。例えば、消費税は利益の有無に関わらず課税されるので資金繰りが厳しくなりますが、前年の消費税額によって支払うタイミングが年一回納税から毎月納税まで変わってきます。そのため、いつ納税すべきかを知らないと資金繰りの計画を立てることができません。そのため、各税金ごとに簡単な納税額の計算はできるようになっておいた方が資金繰りをしやすくなります。
主要な税制
事業者の方にとって有利な税制がいくつかあります。例えば、経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得や製作等した場合に、即時償却又は取得価額の10%の税額控除が選択適用できる中小企業経営強化税制です。税制自体は色々あり、それこそ顧問税理士の方に教えてもらうのが通常ですが、主要な税制を経営者自身が知っていれば経営判断に役立つこともあるでしょう。役立つ税制については別の記事で解説する予定です。
償却の前倒しと税額控除
中小企業経営強化税制について紹介しましたが、税制にはこのように償却を前倒しにできるか税額控除を選択適用できるケースが多々あります。これがどのように違うかは知っておいた方が良いでしょう。
ご存知の通り、固定資産は減価償却することによって課税所得を減らし、その結果法人税を減らすことができます。通常ですと、一年間に計上できる減価償却費の上限が決められているため、複数年にわたって減価償却費を計上することになります。税制で選べる即時償却や特別償却は、この減価償却費の計上を前倒しにできるものです。そのため、ある年にたくさん利益が出た場合などはその年に大きな減価償却費を計上できるので効果的ですが、一方で翌年以降の減価償却費は少なくなるので、複数年で見た時のトータルの税額支払額は変わりません。一方、税額控除は納税額自体を減らす効果があります。そのため、複数年で見た時のトータルの税額支払額は減ります。よって、適用した年における金額的なインパクトは税額控除の方が小さくなりますが、資金繰りに余裕があるなら税額控除を選択した方がトータルの納税額を減らせることになります。
税金の種類
※令和3年5月14日現在、コロナウイルスの影響により申告期限が延長されている場合がありますが、下記では考慮せず一般的な話として解説します。また、下記に述べている税率は一般的な場合であり、税務においては細かく税率が定められている場合があるのでご注意ください。
法人税
法人税は会社の課税所得に応じて課税されます。課税所得は益金−損金で計算されます。これらは税務よ後で聞き慣れないと思いますが、会計上の利益、収益、費用と対応しています。つまり、会計上の「利益=収益ー費用」は税務上は「課税所得=益金ー損金」で計算されると考えれば理解しやすいでしょう。厳密には収益と益金、費用と損金にはさまざまな違いがありますが、それらを調整するのは顧問税理士の仕事なので、経営者としてはざっくりした理解で十分です。
法人税は課税所得が多いほど課税され、課税所得がマイナスの場合は欠損金として翌年以降に繰り越され、翌年以降の課税所得と相殺されます。具体的な税率は、課税所得800万円以下は15%、800万円超は23.2%となります。
納税のタイミングは、決算日から2ヶ月以内です。また、前事業年度の法人税額が20万円を超えた場合、事業年度開始から6ヶ月経った日の2ヶ月以内に納税する中間納付が必要になってきます。
住民税
正確には法人住民税と言います。都道府県に納める都道府県民税と市町村に納める市町村民税があります。法人住民税には、法人税で計算した法人税額に応じて計算する法人税割と、赤字でも納税する均等割があります。法人税割の税率は7%です。納付のタイミングは法人税と同じ、決算日から2ヶ月以内です。
事業税
こちらも正確には法人事業税と言います。課税所得に税率を乗じて計算されます。税率は業種、所得、資本金などにより細かく分けられています。納付のタイミングは法人税と同じ、決算日から2ヶ月以内です。
なお、上記の税金は決算書の科目では法人税、住民税及び事業税等として一つで計上されます。
消費税
消費税は、消費者が何かを購入した際に取引にかかる税金です。
課税される取引
全ての取引に課税されるわけではなくて、「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供」とされています。中小企業においては多くの取引が課税対象となりますが、一部課税されない取引があります。代表例は、土地の売買・貸付、利子や保証料・保険料などです。
課税事業者と免税事業者
多くの事業者の方は課税事業者として消費税を納める必要がありますが、売上や資本金が一定の金額に満たない場合は免税事業者として課税されません。課税事業者になった場合や課税事業者から免税事業者になった場合は税務署へ届け出が必要です。
税率
標準税率は10%、軽減税率は8%です。軽減税率の適用は「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」です。
計算方法
消費税の計算には本則課税(原則課税)と簡易課税の二種類があります。本則課税(原則課税)は売上にかかる消費税から仕入等にかかる消費税を控除して計算します。簡易課税は売上にかかる消費税から業種ごとに定められたみなし仕入率を乗じて計算します。例えば卸売業は90%です。簡易課税は一定の期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が、事前に届出書を提出している場合に選択することができます。選択適用ができる場合には、どちらを選ぶかで有利不利が発生するのでシミュレーションをして選ぶことになります。
納付のタイミング
直前の課税期間の消費税額が48万円以内であれば決算日後2ヶ月以内に納付します。直前の課税期間の消費税額が48万円を超えた場合、中間納付が必要になるので資金繰りへの影響を注意しましょう。中間納付のタイミングは、直前の課税期間の消費税額が48万円超400万円以下の場合は確定申告の期限の6ヶ月後(年一回)、同400万円超4,800万円以下の場合は確定申告の期限の3,6,9ヶ月後(年三回)、同4,800万円超の場合は毎月(年11回)です。
固定資産税
毎年1月1日時点で不動産を持っている場合にかかる税金です。市町村が決めた固定資産の評価額をもとに1.4%を乗じて計算されます。一般的に年4回払いです。
印紙税
契約書や領収書に課税される税金です。一定の金額以上について課税されます。
登録免許税
不動産を取得した際、登記にかかる税金です。例えば中古物件の場合、固定資産税評価額の2%がかかります(軽減税率は考慮していません)。
不動産取得税
不動産を取得した際、取得した方に課される税金です。土地及び居住用建物は課税標準額×3%、非居住用建物は同4%です。自治体から届く納税通知書に納期限が記載してあります。
所得税
法人税は法人の所得に課される税金だったのに対し、所得税は個人の稼ぎ(所得)に課される税金です。所得の種類はいくつかに分かれます。経営者であれば、法人の役員であれば給与所得や退職所得、個人事業であれば事業所得や不動産所得が関係することが多いと思います。これ以外にも利子所得、配当所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得があります。これらを加算したり調整して税金を計算します。税率は所得が多いほど高くなる累進課税となっています。
相続税
財産を相続した場合にかかる税金です。個人に課される税金のため、法人には直接関係しません。しかし、中小企業の場合会社への株式が非上場株式として思いがけず高額になったり、会社への貸付金に課税されることがあります。一定の金額(基礎控除)内であれば課税されません。財産額が多くなるについて税率も高くなります。
贈与税
個人から財産をもらったときにかかる税金です。一年間にもらった金額が110万円以内の場合は基礎控除の範囲内であり、課税もされず申告も不要です。相続税と同様、金額が大きくなるほど税率は高くなります。なお、上記はいわゆる「歴年課税」と言われるもので、一定の場合には「相続時精算課税」を選択することができませうが、今回は説明を省略します。
まとめ
・税金は資金繰りに直接影響するので、税金の種類と簡単な計算方法は覚えておいた方が良い。
・有利な税制がある場合があり、主要なものは知っておいた方が良い。
・償却の前倒しは単年の税額は減らせるが、通年でトータルの税金を減らせるのは税額控除である。
・消費税の支払いのタイミングは直前の課税期間の消費税額によって中間納付が必要になる点に注意する。