金融仲介機能のベンチマークを地域ごとに見る ~第45弾:神奈川県編~
1.神奈川県の地銀
神奈川県はまず工業が盛んで愛知県に次いで全国二位です。横浜市や川崎市の臨海部は京浜工業地帯として有名です。また、卸売業や小売業の商業も盛んで、こちらも全国4位です。
神奈川県には第一地銀の横浜銀行、第二地銀の神奈川銀行があります。
横浜銀行は東京の東日本銀行とともにコンコルディア・フィナンシャルグループを形成しています。
主要指標は下記表のとおりです。他県以上に、第一地銀である横浜銀行が第二地銀である神奈川銀行を圧倒しています。
横浜銀行 | 対神奈川銀行比 | 神奈川銀行 | |
経常収益(H29.3) | 245,979百万円 | 30.4 | 8,095百万円 |
コア業務純益(H29.3)*1 | 不明 | 不明 | |
修正OHR(H29.3)*2 | 48.7% | – | 85.5% |
経常損益(H29.3) | 87,369百万円 | 94.2 | 927百万円 |
自己資本比率(H29.3)*3 | 12.1% | – | 8.1% |
従業員(直近) | 4,694名 | 12.7 | 370名 |
県内貸出シェア(H29.3) | 30% | 1% |
*2 経費÷業務粗利益で算出。効率性を示す指標で低い方が良い。地銀の加重平均値は70.3%
*3 横浜銀行は国際基準、神奈川銀行は国内基準。国際基準では8%、国内基準では4%以上が義務付けられている。
2.金融仲介機能のベンチマーク項目の比較
では、具体的に同ベンチマークの項目を見てきます。
(なお、項目の詳細な異同については末尾の(参考)に記載しておりますので必要に応じてご参照ください。
また、同ベンチマーク値の高低について他行と比較することがありますが、項目によっては銀行間で定義や集計方法が異なることがあります。そのため、必ずしも同じ前提での比較ではなく、参考程度である点くれぐれもご留意ください)
(1)横浜銀行
共通ベンチマークは5つ掲載しています。
数値面では、事業性評価融資の実数の掲載はありますが、割合についての情報がないので高低についてイメージしにくいです。
選択ベンチマークは12項目です。数も多く、重要な分野は網羅されています。やや珍しいのは本業支援担当者の支店及び本部全体に占める割合です。
数値面では、経営者保証ガイドラインの活用先数の割合が8%と低めです。他行平均は10%台半ばです。また、本業支援を担当している支店従業員数の占める割合も16%とやや低いです。掲載行はそれほど多くはありませんが、平均は30%程度です。
独自ベンチマークはありません。
(2)神奈川銀行
共通ベンチマークは4つです。
数値面では、事業性評価融資の割合が低いです。先数で全体の3%、残高ベースで7%です。(平均は各10%,20%程度)
選択ベンチマークは10項目です。重要な項目も押さえていますが、本業支援の支店業績評価に占める割合や、本業支援等に関する取締役会における検討頻度は少し珍しい項目です。
数値面では、横浜銀行と同様、経営者保証ガイドラインの活用先数の割合が6%と低めです。
独自ベンチマークはありません。
3.定性面の比較
(1)横浜銀行
横浜銀行の経営計画はコンコルディア・フィナンシャルグループとして策定されています。そのため、第35弾の東京都編の東日本銀行で述べたことを再掲します。
基本戦略のうち「グループシナジーの早期実現による成長の加速」「地方創生をはじめとする地域の課題への主体的な関与」あたりが特徴的でしょうか。後者の具体的な内容は地域開発プロジェクトや地域産業の活性を支援するといったものです。
金融仲介機能のベンチマークはテーマ及び構成ともにオーソドックスなものです。経営計画と整合するような、特に地域の課題についてなどは重点的に説明し、可能なら独自ベンチマークも設定すれば説得力があったのではないかと思います。
(2)神奈川銀行
神奈川銀行の経営計画は「地域密着 かなぎんⅡ(セカンドステージ)」です。キーワードは「コア業務の深化」「お客さま志向への意識改革の徹底」「クイックレスポンス」の3つです。特に3つ目が特徴的でしょう。また、計数目標としても、中小企業等貸出金比率や事業性融資取引先数を設けている点がユニークです。
金融仲介機能のベンチマークはテーマ設定がごく一般的なものです。具体的には、「お客さまに対するコンサルティング機能の発揮」という大テーマのもと、①創業・新事業支援、②成長段階における顧客への支援、③経営改善支援、事業再生支援、④事業承継支援という4つのテーマに基づいて説明しています。これらはどの銀行でも重視しているある意味普通のテーマなので、もう少し神奈川銀行の色が付いた表現があってもよかったと思います。
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(※1)金融仲介機能のベンチマークについては、2017年5月13日のコラムで説明しております。
(参考)
(1)各行が掲載している金融仲介機能のベンチマーク
①横浜銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
3 金融機関が関与した創業、第二創業の件数
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
7 地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
18 販路開拓支援を行った先数(地元・地元外・海外別)
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
23 事業再生支援先における実抜計画策定先数、及び、同計画策定先のうち、未達成先の割合
24 事業再生支援先におけるDES・DDS・債権放棄を行った先数、及び、実施金額(債権放棄額にはサービサー等への債権譲渡における損失額を含む、以下同じ)
34 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している支店従業員数、及び、全支店従業員数に占める割合
35 中小企業向け融資や本業支援を主に担当している本部従業員数、及び、全本部従業員数に占める割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
42 地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小企業再生支援協議会の活用先数
独自ベンチマーク
なし
②神奈川銀行
共通ベンチマーク
1 金融機関がメインバンク(融資残高1位)として取引を行っている企業のうち、経営指標(売上・営業利益率・労働生産性等)の改善や就業者数の増加が見られた先数(先数はグループベース。以下断りがなければ同じ)、及び、同先に対する融資額の推移
2 金融機関が貸付条件の変更を行っている中小企業の経営改善計画の進捗状況
4 ライフステージ別の与信先数、及び、融資額(先数単体ベース)
5 金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額、及び、全与信先数及び融資額に占める割合(先数単体ベース)
選択ベンチマーク
1 全取引先数と地域の取引先数の推移、及び、地域の企業数との比較(先数単体ベース)
5 事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数
11 経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)
12 本業(企業価値の向上)支援先数、及び、全取引先数に占める割合
13 本業支援先のうち、経営改善が見られた先数
19 M&A支援先数
21 事業承継支援先数
36 取引先の本業支援に関連する評価について、支店の業績評価に占める割合
39 取引先の本業支援に関連する研修等の実施数、研修等への参加者数、資格取得者数
48 取引先の本業支援に関連する施策の達成状況や取組みの改善に関する取締役会における検討頻度
独自ベンチマーク
なし
(2)各行における金融仲介機能のベンチマーク
横浜銀行 p.13~
神奈川銀行
(3)各行における経営計画
横浜銀行
神奈川銀行
(4)各行における指標の引用元
基本的には各行のWebサイトより引用しています。修正OHRについては「月刊 金融ジャーナル2017 9月号」、県内貸出シェアについては同「増刊号 金融マップ2018年版」より引用しています。
※上記内容は、以前別の屋号で書いたブログと同じ内容になります。