経営を深め、相談する場

経営改善の手引き(第1回)〜経営者格差を縮めたい〜

業績が厳しいにも関わらず相談できる人がいない経営者に向けて

私はこれまで100社以上の業績が厳しい中小企業をみてきました。

その中で感じたことは、経営者格差が非常に大きく、かつ現在進行形で今もさらに大きくなりつつあるということです。

なぜそのような状況になるかというと、二つ理由があります。

まず大前提として、普通中小企業の経営者は経営を学ぶ機会がありません。

そのため、経営者が経営を学ぶ機会は各経営者の置かれた状況や素養に左右されます。

この結果、経営能力がどんどん高くなる経営者とあまり変わらない経営者の両方が出てきます。

まずは、経営能力が高い経営者についてです。このような経営者は総じて良質な情報に触れるのがうまく、どんどん経営能力を伸ばしていきます。

具体的には、

①トレンドやITなど経営に役立つ情報へ自ら張るアンテナが高い

②税理士など士業や同業者・金融機関から情報を得るのがうまい

③それらを吸収した上で自社を修正する能力が高い

といった理由からです。

一方、経営能力が高まらない経営者には、そのような機会が少ないです。

①日々の雑事に忙殺され、自社がどのような状況か考える余裕がない。より正確に言えば、自社がこのままでは行き詰まるのをなんとなく自覚しつつも、どうすればよいか真剣に考える余裕もなく、答えも見つからない

②①のために、経営を良くするための情報を自ら取りに行くという発想ができず、周りの士業や金融機関にも腰を据えて相談できない

③①のために、仮に周囲の士業や金融機関からアドバイスをもらい、その通りだと思っても中々実行に移せず、そのまま時間が過ぎていくうち体力がなくなり、打つ手がなくなってくる

という理由があります。

当然ですが、経営能力と業績は連動するため、後者は業績が悪いことが多いです。

そして大切なことは、業績が悪いと士業への報酬も低くならざるを得ず(場合によっては未払いが続き解約)、金融機関からの格付けも下がることで、彼らにとってその会社の重要性はさらに下がり、より経営改善へ至る道が険しくなるという悪循環に陥ることになります。

つまり、業績が悪くなると相談相手もいなくなる場合があるということです。

一旦このような状況に陥ってしまいますと、中々自力で潮目を変えるのが難しく、結果としていつかは廃業という道を辿ることになります。

一方で、このような現実を是とするのか否かという問題があります。

このような状況は、年配>若者、地方>都会、二代目以降>創業者など構造的に陥りやすい要因があります。

しかし、そのような要因があるから仕方がないと割り切ることはできない。

どのような業績の経営者であっても、業績を改善したいという強い気持ちがあれば、チャンスは与えられるべきだ。

そのように考えたわけです。

冒頭に述べたように、経営者への情報の入り方、その質と量の偏りには空恐ろしいものがあります。

たくさんの経営者を同じ目線で見ている私の立場としてはこのような現実に気づくことができますが、経営者視点では他の経営者と自分がどう違うのか気づくことは難しいでしょう。知る機会がそもそもないですから。

そのような現実を少しでも是正するために、業績が悪いけれども誰も相談できる人がいないという経営者にとって道標となってほしいと願い、経営改善の手引きを書こうと思いました。

なぜ公認会計士が経営改善の手引きをするのか

では、なぜ公認会計士である私が経営改善の手引きをするのか。

公認会計士は会計の専門家ではあるけれど、経営の専門家ではないのではないか。

そのような疑問を抱く方も多いでしょう。

実際、経営者の中には自社の経営については社長である自分が一番良く知っている、何も知らない外部のものが偉そうな口を聞くな、と内心思われている方も多いでしょう。(実際に口には出しませんが)

公認会計士と経営という関係で言えば、公認会計士試験の選択科目の一つに経営学があります。

そのため、座学として経営の知識がある会計士は多いでしょう。

一方、実務ではどうか。

公認会計士の独占業務である監査は会計士ならだれでも経験しますが、経営についてはどうか。

答えとしては、それなりに経験する会計士は多いです。

具体的には、コンサルタントとして関わることが多いです。

コンサルタントは通常専門分野があります。会計士がなるコンサルタントで多い専門分野はM&A、事業承継、組織再編、事業再生、IFRS導入、不正発見などです。

これらのコンサルタントを経験していると事業計画策定やデューデリジェンス(調査)をしていくことが多いですが、その過程において濃淡はあれ経営についてもコンサルする機会が出てきます。

特に、私は事業再生がメインでしたが、どのような方向で会社を立て直すのか、経営者と経営についてディスカッションする機会はかなり多かったです。

具体的には、税理士法人時代にはコンサルタントとして再生計画を作成する支援をしたり、財務調査や事業調査といったいわゆるデューデリジェンスを手がけていました。

その後政府系の再生支援機関に移り、ここでは逆の立場から再生計画やデューデリジェンス・レポートを精査したり、債権者として事業者のため金融機関と交渉し、中小企業が再生するお手伝いをしました。

いずれも再生計画を実現化する過程で経営者とかなり綿密に打ち合わせします。

その結果、経営についての話し合いにもかなりの時間を費やしてきました。

しかし、そうはいっても会社には多種多様な業種があります。それぞれの業種において相応の専門性が求められるわけで、それらの全てに精通するというのは時間的に不可能です。

そうかといって、経営に何もいうことができないというのは違います。

確かに業界の知識は経営者にかなわないかもしれませんが、経営改善の方法には業界を超えて効果のある方法も多いためです。

考えてみれば当たり前の話で、業績改善とはざっくりいうと売上を増やすか費用を減らすかです。

例えば費用を減らす方法として、ある業界では通用するが、別の業界では通用しないという方法ばかりではないはずです(もちろん特定の業界にだけ通用する方法もありますが)。

そういうわけで、私は事業再生という分野で様々な経営改善の方法を見てきたわけです。

それこそ、自分が直接関わっていない再生計画や調査報告書(いわゆるデューデリジェンス・レポート)を見る機会も含めれば相当な数の再生例を見てきています。

その中には、当然うまくいったケース・失敗したケースが両方あります。

さらに、経営改善の手法としても実行されたがうまくいかなかったケース、そもそも実行すらされていないケースなど多種多様です。

そのように成功・失敗含めたくさんのケースを見ていると色々感じることが出てきます。

例えば、

経営改善方法法としては正論だけれども、この会社・経営者には実行が難しいな

とか

この方法だったら簡単だし効果も高いだろうからうまくいくだろうな

とか

会社と金融機関の仲が悪いから計画が下振れた時の追加融資は難しいだろうな

などです。

このような知識は中々触れる機会もない経営者も多いのではないでしょうか。

公認会計士であるか否かは経営改善の手引きをするものの条件として必須だとは思いません。

しかし、経営者に役立つ情報を提供することができるのであれば、公認会計士が経営改善の手引きをしても良いと考えます。

経営者の役割〜経営の責任を負っている自覚はありますか〜

長くなってしまったので今回は最後に一つだけ。

具体的な方法は次回以後に譲ります。

今回の最後は経営者の役割についてです。

経営者格差が拡大する理由とも繋がりますが、経営者の最優先すべきは自社の経営について考え抜くことです。

実は、業績の厳しい経営者ほど人件費を削減するために自分自身が一番働き(さらに自分への役員報酬も削減)、その結果として経営のことが考える余裕がなくなり、自分も会社も厳しいという状況がずっと続くというケースが非常に多い。

例えば、このコロナ禍において旅館業界は未曾有の逆境に立たされています。

しかし、私が関わっている旅館で業績が正反対の事業者がいます。

業績が良くなっている旅館は、昨年の春先の時点でコロナによる客の心理と行動の変化を予測し、いち早くコロナ対策に投資し、コロナ対応を前面に打ち出すことで客の安心を勝ち取り、go to トラベルが実施される前から予約は数ヶ月先まで満室という状況です。手数料を削減するためエージェントの利用を辞めたにも関わらず、です。

一方、業績が伸びない旅館におけるコロナ対策は行政が要請するものに従うのみの受け身の姿勢。結果、他の旅館と差別化できず日本政策金融公庫から調達したコロナ資金によりコロナ禍が収まるのを待っている状態。

後者はコロナ前から経営者が非常に多忙で、経営改善のためにやるべきことがたくさんあっても日々の雑事にかまけて実行に移せない状況でした。

日本には現場主義を良いとする風潮があります。私も基本的には賛成です。

しかし、このケースに限って言えば誤った現場主義というものでしょう。

経営者が自ら手を動かすことは良いのですが、それにかまけて経営を考えることが疎かになってしまっては本末転倒もいいところです。

良く言われていることですが、日本にはこのような経営者が非常に多いです。

いわゆる、職人的な経営者ですね。

日々が忙しいと目の前のことに夢中になってしまうのが人間の脳の性質です。

そのため、経営を考えるというような抽象的で一見緊急のものではないことはつい後回しにしたくなり心理は良く理解できます。

しかし、そのような現状だといつになっても経営が良くならないというのもまた真理です。

そのため、日常の業務に追われて経営を考える余裕がない経営者は、どこかのタイミングで少し無理をしてでも経営をどうするか集中的に考える期間が必要です。

そして少しずつ業績が良くなって効率化が進んだり人を雇う余裕が出てくれば、経営者自身にも余裕が出てきて、無理をする必要がなくなります。

そのために具体的にどうすれば良いかというのは今後書いていく予定であるまさに経営改善の手引きの話になりますが、初回である第一回は細かい具体的な話よりも総論的な話。

経営者の最優先すべき仕事は自社の経営を考え抜くことであるということを肝に銘じてほしいと思います。