経営改善の手引き(第4回)〜費用を減らす:冗費削減をより掘り下げる〜
今回は費用削減のうち、冗費削減について解説していきます。
前提として、経費削減を気にしない経営者は少ないでしょうから、電気会社の交代や家賃の減額交渉など目立つ費用については既に着手しているものとして、今回はより掘り下げたやり方をご紹介します。
具体的には、科目レベルより詳細な取引レベルにおける無駄な経費を削減することを目指しています。
大は小を兼ねるという格言がありますが、こと分析においては小は大を兼ねるということが大事です。
やり方
やり方を簡単にご説明しますと、経営者自ら総勘定元帳の費用科目別に各取引をチェックするという流れになります。
総勘定元帳とは、決算報告のタイミングで税理士からもらう資料です。
貸借対照表、損益計算書における科目順に期中の全ての取引データが時系列で入っています。
総勘定元帳は分厚い資料なので、開いたことのない経営者もおられるかもしれません。
しかし、心配することはありません。
会計の知識がなくても内容はわかります。
借方・貸方という会計の専門用語は気にしないでください。
科目ごとに、日付順に相手先や内容とその金額が書かれているだけです。
そのため、削減できそうな科目を選び、日付順に各取引の内容をさらっと見て、内容があまりなじみのないものだったり金額が大きいものを削減対象とすれば良いだけです。
ポイント
やり方自体は上記で全てなのですが、いくつかポイントがあります。
経営者が自らやる
原則として経営者が自らやるべきです。
総勘定元帳は分厚い資料なので、そんな時間あるかという声が聞こえてきそうです。
しかし、全てを詳細に見るわけでなく、科目を絞り、金額と取引内容をざっと見るだけなので思っているほど時間はかかりません。
売上が数億円程度の会社であれば、十分可能です。
それ以上の会社であれば取引数も膨大になりますが、この場合も総勘定元帳は通常エクセル形式で打ち出せるので、エクセルのソート機能を使って見るべき箇所を絞ることもできます。
そこまでして経営者が自ら実施すべきだということには、もちろん大きな理由があります。
その理由は、経営者と従業員では経費削減のモチベーションが全く違うためです。
経営者は自社の利益を増やすことが最重要事項です。
そのため、従業員もそのように考えると無意識に考えてしまいがちです。
しかし、従業員における最重要事項は自分の給料が多いか少ないかです。
言い替えると、自分の給料に影響なければ費用削減しようがしまいがどうでもよいということです。
その結果、惰性で働くことになり、不要な経費が発生しやすくなります。
よって、従業員に費用削減をさせても大きな効果は見込めません。
あくまで経営者目線で経営者が自身で判断することによって、実効性のある経費削減ができることになるのです。
わかりにくい内容に着目
一般に経費削減はわかりやすい項目から着手していきます。
冒頭にも書いたように、電気会社の交代や家賃の減額交渉などはその例です。
逆に言えば、わかりにくい内容はムダであっても削減されていない可能性があるということです。
科目で言えば雑費が代表的なものですし、それ以外の科目の中にも適用を見てもよくわからない取引というのはよくあるものです。
このような経費について従業員に詳しく内容を聞いてみると、必要性は高くないということはよくあります。
総勘定元帳には相手先や摘要が書いてあります。
そこに経営者になじみのない名称が出てきたら、それは経営に不要な出費である可能性があるということですので、ぜひチェックしてみてください。
定期的に確認する
最近はサブスクリプションのように毎月定額のサービスが増えています。
このような課金システムが怖いのは、企業が注意するタイミングは最初の契約時だけで、その後は費用が発生しても気にしなくなる可能性が高いということです。
そのため、最初はよく使ったり有用だと感じたが、時間が経って使わなくなった場合にも課金が継続するという事態が起こりがちです。
個人の生活で言うと、例えばフィットネスジムの例がわかりやすいのではないでしょうか。
最初の数ヶ月は元を取るためにたくさんいきますが、いつしか面倒になってほとんど行かなくなっても毎月料金を払っているというケースですね。
フィットネスジムは個人の話なのでまだ頭に浮かびやすいですが、企業レベルだとさまざまな月額サービスを受けているでしょうから、中々削減しようと考える機会がないのが厄介です。
サブスクリプション以外にも同じようは話はあります。
例えば大昔に契約したコンサルタントフィーや定期購読料などです。
これらも今は不要と言うことも多いでしょう。
繰り返しますが、人間は惰性で生きる生き物です。
そのため出費の痛みを最初は感じても、徐々に慣れてしまっていつしか何も感じなくなると言う性質を持っています。
これは非常に怖いことです。
そのため、その痛みを思い出すために(出費に見合う価値か判断するために)定期的に見直す必要があると言うことです。
最初は意味があると思っても、時間が経てば不要と言うケースはいくらでもあるのですから。
注意点
これはではどちらかというと冗費削減のメリット面を述べてきました。
ここでは注意点としてデメリットを述べます。
より正確に言うと副作用です。
売上のマイナス影響
例えば経費削減の代表的なものとしては、広告宣伝費や交際接待費、旅費交通費などがよく挙げられます。
これらのうちには使い過ぎのケースもあるのでもちろん不要なものは削減しなければなりませんが、よくありがちなのは削減しすぎた結果売上も下がり、余計に経営が苦しくなるというケースです。
こうならないためには、科目や金額だけで判断するだけでなく、費用対効果も考慮に入れるべきです。
従業員のモチベーション低下
上記と似た話ですが、行きすぎた経費削減は従業員のモチベーションの低下にもつながります。わかりやすいのは福利厚生費や消耗品費でしょう。
福利厚生費は利益にどの程度貢献しているか見えにくいものであるので、経費削減の対象になりがちです。
しかし、福利厚生費や消耗品費は従業員の満足度を下げることにもつながりますので、こちらも費用対効果を考えるべきです。
ちなみに、ポイントの項目でわかりにくい項目に着目すべきとしたのは、そのような項目であればなくなっても誰も困らないため副作用がないと言う理由もあります。
無駄か否かの基準
冗費削減は「必要」か「ムダ」かを判断していく作業ですが、現実にはその判断に迷うこともあるでしょう。
多くのサービスはないよりはあった方がマシだからです。
そのため、なんとなくで判断してしまうと結局あまり冗費削減ができなかったという結果に陥る可能性があります。
そのため有効な対策としては、無駄か否かの判断基準を作って、それに基づき判断することです。
こうすれば判断にブレが出ることな効果的な冗費削減ができるでしょう。
まとめ
今回ご紹介した方法は経営者が自ら総勘定元帳をチェックするというものです。
経営者が自ら、と言う点で面倒に思われるかもしれませんが、経営者と従業員ではモチベーションがまるで異なるので、経営者が自らやることによって効果的になります。
総勘定元帳というと拒否反応が出る経営者もおられるかもしれませんが、実際には特段の会計知識も必要なくできるものです。
目立つ費用は既に削減されている可能性が高いので、中身のわかりにくい費用に着目しましょう。
昔は意味があると思って契約したが、今はほとんど使っていない。しかし、今でも月額料金を払っているというケースがあるため定期的に見直しましょう。
冗費削減には副作用がある可能性があります。
削減という金額のみならず、それがなくなることのマイナス面にも目を向けましょう。
効果的に実施するために、判断の基準をあらかじめ作っておきましょう。