経営を深め、相談する場

事業計画書の書き方

 

目次

1.事業計画書の書き方と実践

(1)事業計画書を作るメリット~利益を増やしたければ、計画を作る~

事業計画書を作る目的と効果~利益を増やす一番の近道~

私は事業計画書を作る意味を、最強の武器を手に入れることだと考えています。どういう意味でしょうか。それは、利益を増やす一番の近道であるという意味です。おそくらほとんどの経営者の方の最大関心事は自社の利益をいかに増やすかだと思います。利益を増やすことで、資金繰りのために銀行に頭を下げることもなくなる、人もたくさん雇い、自分への報酬額を増やすこともでき、様々な不安から解放されます。そのため経営者の方は日々どうすれば利益を増やすことができるかに苦心しているはずです。だからこそ、節税や補助金など比較的確実に利益を増やすことができる情報の人気があるわけです。

この点、なぜ事業計画書を作ることが利益を増やすことにつながるのでしょうか。それは、事業計画書作成の過程で考えること・得られることの多くが利益に直結しているからです。具体的には、現状把握、会計力を高める、打ち手を考える、実行力を高めるという効果がありますが、これらにより利益を増やすことができるということです。本記事ではそれぞれの項目においてなぜ利益を増やすことができるかを解説していきます。

誤解がないように補足しておくと、事業計画書を作る本来的な意味は自社の羅針盤を作ることです。つまり、混沌とする経済環境の中、自社の定性・定量的な情報を整理し、どこに向かべきかを指し示す存在が事業計画書です。これはこれで全く正しいのですが、ただどうしてもこの説明だとそれって当たり前だよね、と思われ、中々聞く耳を持ってもらえません。そこで読者の方に興味を持っていただくため、本記事では敢えて利益に焦点を当てています

事業計画書の種類と費用

事業計画書を作るメリットを語る前に、まずは一口に事業計画書と言っても計画と言われているものは色々な局面で作成されるので、どの計画を指しているのかを説明しなければなりません。下記、計画と言われるものの中で簡単なものから順に記載しますが、このうち早期経営改善計画以降のものを想定しています。ただし、下記の呼称はいずれも何らかの国からの支援があるものが多いですが、これらにとらわれず企業が自主的に作成する事業計画書も含みます。むしろ本記事ではこちらの方を想定しています。

経営力向上計画:人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や 設備投資など、自社の経営力を向上するために実施する計画で、認定された 事業者は、税制や金融の支援等を受けることができます。 また、計画申請においては、経営革新等支援機関のサポートを受けること が可能です。費用については、それほど分量が多くないので顧問税理士に頼んでも数万円もしくは顧問報酬の範囲内で手伝ってくれるでしょう。自社でも十分作成可能です。自社だけで不安なのであれば、地元の商工会議所に相談するのもおすすめです。こちらいいことと分かっていてもなぜできないか〜経営力向上計画を例に~も参考になるでしょう。

経営革新計画:中小企業が「新事業活動」に取り組み、「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する中期的な経営計画書です。 計画策定を通して現状の課題や目標が明確になるなどの効果が期待できるほか、国や都道府県に計画が承認されると様々な支援策の対象となります。費用については、それなり労力がかかるため10万円から20万円程度が多いと思われます。自社でも作成は可能です。自社だけで不安なのであれば、地元の商工会議所に相談するのもおすすめです。

早期経営改善計画基本的な経営改善に取り組むために作成する資金繰り計画やビジネスモデル俯瞰図といった内容の経営改善計画です。その費用の3分の2(上限20万円)を補助することで、中小企業者等の早期の経営改善を促すものです。費用については、補助が出るだけあってそれなりにかかります。会社の規模がそれなりであれば、補助をフルに活用する30万円(会社負担10万円)が多い印象です。売上が数億円以上であれば、もっとかかる場合もあります。こちら二つの経営改善計画策定支援事業(旧プレ405事業と405事業)も参考になるでしょう。

経営改善計画金融支援を伴う本格的な経営改善の取組むために作成する計画書です。暫定リスケ(※1)の計画書、超長期リスケの計画書等があります。計画策定費用及びフォローアップ費用について、経営改善支援センターが、3分の2(上限200万円)を負担します。費用については、通常計画作成だけでなく財務調査(財務デューデリジェンス)も併せて実施されるので、補助を最大限に活用する300万円(会社負担100万円)が多いでしょう。場合によっては事業調査(事業デューデリジェンス)も実される場合もあり、さらに費用がかかる可能性があります。こちら二つの経営改善計画策定支援事業(旧プレ405事業と405事業)も参考になるでしょう。

※1 リスケとは、返済計画を見直し、返済可能な計画に変更することを指す言葉です。

事業再生計画経営改善計画よりもさらに本格的な計画書です。実抜計画・合実計画(※2)の要件を満たした計画書になります。スキームは色々あり、私的整理では認定支援機関、中小企業再生支援協議会、地域経済活性化支援機構、事業再生ADR、法的整理では民事再生法、会社更生法などがあります。費用については、経営改善計画と同様に財務・事業調査が必要となり、同程度以上の費用がかかることが多いです。補助がある場合もあります。

※2 金融機関が債務者区分をランクアップさせるために必要な基準を満たした計画です。

現状把握~なんとなく知っているの雑さに気づく~

事業計画書作成において最初の段階ですることは現状の把握です。具体的には、自社の強みや弱みの洗い出したり、競合との違いを把握したり、儲かっている商品や得意先を把握したりします。これらの情報については何となく把握していることがほとんどです。しかし、大変恐縮ですが、きちんと確認していくとかなり雑であることが多いです。例えば強みと思っている部分が実は競合も同じ特徴を持っており強みではなかったとか、儲かっていると思っていた先が手間や費用を考慮すると実は不採算先であったなど、不正確な事例は多いです。これは当たり前の話で、こういう自社分析をする機会は経験している会社はほとんどないので、きちんとできなくて当たり前です。しかし、現状分析が正しくできないと判断の根拠となる認識自体が間違っているわけですから、その結果としての経営判断も間違い、当然利益を最大化することはできません。そのため、正しく現状認識するということは利益を最大化するための基本的な前提ということになります。

会計力を高める~経営を数値でつかむ~

事業計画書を作る過程において経営者の方は会計の力も高めることができます。というのも、事業計画書作成においては貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書という財務三表を作ることになりますが、目標の利益や現預金水準、返済額を出すために様々なシミュレーションをします。例えば、A商品を1,000個売ったら利益は100万円増える、売上原価率を1%改善したら~、この広告宣伝費を削減したら~、などです。また、このままでは現預金が足りなくなるから借入金の返済は年間300万にしたい、逆に借入金を400万円返済したいから売掛金や未収入金を100万円回収しなければならない、など。これらのシミュレーションを通じて、個々の項目が利益や現預金水準にどう影響するかを体感できます。この経験を通じて、自社の決算書がどのような項目や数字から構成されているかを肌で感じることができます。この状態は経営を数値で掴んでいる状態と言えます。この状態になれば、数値を根拠に経営判断をする習慣が身についているので、利益改善に役立つのは言うまでもないでしょう。

打ち手を考える~インパクトを見積もる~

事業計画書作成においては、経営改善のための数々の打ち手を考えることになります。ここで極めて大切なのは、打ち手の経済効果を考えなければならないということです。どういうことかと言いますと、例えば会社の赤字が500万円だったとします。改善のための打ち手として、営業による売上げアップや広告費削減を考えました。売上アップによる利益改善見込み額が200万円、広告費削減が同じく200万円だったとすると、仮に打ち手が想定通りうまくいったとしても、黒字にするには足りません。であれば、他に何か追加で打ち手を考えなければなりません。打ち手の経済効果を考えなければここまで深く考えません。経営改善策はほとんどの経営者の方が持っていて、実行に移しているかと思います。しかし、その経済効果を見積もって、その結果どの程度利益が改善するかを想定している経営者はほとんどいません。目標の利益を達成するためには今考えている打ち手だけで十分かどうか、経済効果も併せて考えることで判断できるようになります。また、経済効果がわかれば優先順位をつけるのも簡単です。中小企業は人的資源がかなり限られていますから、貴重なリソースを何に重点的に割くかは重要な課題です。事業計画を作ることにより正しい優先順位で打ち手を実行することができます。効果の高い打ち手によって利益は改善するわけですから、これらも利益の最大化には欠かせない要素です。

実行の仕組み~確実に実行する~

事業計画書を作る大事な点として、打ち手を確実に実行に移すという点があります。打ち手を考えたら実行に移す、当たり前に思われるかもしれませんが中小企業においては当たり前ではありません。経営者の方は非常に多忙であり、日々やるべきことが山積しています。そのためやらなければならないとはわかっていても、つい後回しになって中々着手できず時間だけがいたずらに過ぎていくというケースが非常に多いのです。これは事業計画書を作ることで防げます。なぜか。まず、事業計画書を作ることで、これらの改善策を実行するんだということを企業内部や外部の金融機関に向けてコミットすることになります。これらが実行へのプレッシャーとして機能します。そしてもっと大事なのが、定期的に振り返る機会を得られるということです。経営者の方がやるべきことを後回しにしてしまうのは、やらなくても誰からも何も言われないためです。しかし、やらない時にきちんとやりましょうと言ってくれる状況があれば別です。事業計画書を作ると、多くの場合モニタリングといって振り返りの仕組みも併せて考えることが通常です。このモニタリングの仕組みにより、もしやるべきことをやってなければやるよう促されることになります。こうして考えた打ち手を確実に実行に移すことができます。行動が変わらなければ数字も変わらない。逆に、行動が変われば数字も変わる。打ち手を確実に実行することで、利益を改善することができます。

外部に理解される~金融機関の評価UP~

これは利益に直接結びつくものではないですが、事業計画書を作ることによって金融機関からの評価は高まります。その結果、新規融資を受けやすくなったり色々プラスに働きます。なぜかというと、金融機関は経営者の方が思っているほどその会社のことを理解していないためです。なぜ理解できないかの原因については金融機関の歴史の変遷など色々ありますが、特に大きいのは一人あたりが受け持つ企業数が昔に比べはるかに多くなっているためです。つまり、金融機関の担当者は1社あたりに割ける時間が少なくなり、その結果企業の理解が深まらないというのが現状です。言うまでもなく、2年など短期間で担当者は交代するわけですから時間がかかってもこの現状は変わりません。そういう背景があるため、時には担当者が融資をしたくても企業の実態が不明のため、新規融資に及び腰になるというのはよくある話です。ここで、もし企業が事業計画書を作成していたらどうでしょう。事業計画の中には、企業の現状分析、行動計画、そして金融機関が一番欲しい返済計画を含む将来の数値計画があります。金融機関が最優先する事項は貸したお金が返ってくるか否かです。言い換えれば、返済原資が十分か否かです。計画にはそれを判断するための情報の宝庫になります。そのため、事業計画書を作っている企業は金融機関から高く評価されます。

余談ですが、先述した経営改善計画や事業再生計画はリスケを始めとした本格的な金融支援が含まれます。つまり、本格的な金融支援をするには本格的な事業計画書が必要ということです。しかしながら、この段階まで行くと事業計画書作成にも最低数百万円以上の費用がかかりますし、労力やかかる時間も膨大なものになるので、その段階に至る前に簡便な計画を作って金融機関の理解を得るのが上策です。

活用の形~補助金申請にも有効~

事業計画書を作成すると、補助金を申請する際にも有効です。補助金を申請する際、多くの補助金では自社の分析や今後の展開を説明し、簡単な数値計画も作ります。そして、その内容の巧拙によって採択されるか否かが決まります。補助金にもよりますが、多額の補助金が得られる事業再構築補助金やものづくり補助金といったものはそれなりの質・量が求められます。補助金申請は頻繁にするものではないので、慣れてない企業だと簡単に書けず、時間を書けたにもかかわらず不採択になることも多いです。しかし、自社の分析や今後の展開、数値計画といった補助金の採点項目は正に事業計画で記載すべきことそのものです。つまり、既に事業計画書を作成している企業であれば、補助金の申請書を作成するのが格段に楽になるということです。内容にしても、補助金申請のためにとってつけたような小手先のものではないので説得力も増します。上記の理由から、事業計画書作成は補助金申請においても有効に利用できます(なお、一部の計画と補助金では補助金申請時にズバリ加点要素となるものもあります)。補助金申請については 補助金支援〜A to Z〜も併せてご覧ください。

まとめ

・事業計画書を作成するのは利益を作成する上での最強の武器となる。

・思ったより正確に自社を把握していないが、正確に把握することで正しい判断ができ、その結果利益を増やせる。

・経営者の会計力を高めることで、利益を増やすための判断の精度が高まる。

・打ち手の経済効果を考えることで、優先順位の高い打ち手から実行に移せる。

・事業計画書を作り、モニタリングもすることでやるべき施策の先延ばしを防げる。

・事業計画書を作ることで金融機関からの評価も高くなり、新規融資など様々な面でプラスに働く。

・事業計画書で考えた内容は補助金申請にもそのまま活用できる。

(2)コロナ禍における事業計画書を作る意味~不安は予測不能だから生まれる~

事業計画書によって安心できる理由

コロナ禍という未曾有の危機により、多くの事業者の方が非常に不安になっています。この不安を払拭するためには事業計画書を作ることが非常に有効になります。なぜなら、将来が見えずどうなるかわからないから不安は生まれるため、事業計画書を作ることで将来を見通すことができれば危機に対して先手を打てるからです。なぜ先手を打てるのでしょうか。計画を作るメリットは多岐に渡りますが、コロナ禍においては特に下記の点が活かされます。

自社の羅針盤を再定義する機会

コロナ禍によって多くのビジネスが変わりました。特に影響が大きいのは飲食業や宿泊業ですが、間接的な影響も含めれば様々な業種が影響を受け、アフターコロナにおいてもコロナの影響は続くと言われています。例えばコロナ禍によってテレワークが進みましたが、これは今後も一定割合は続くでしょう。コロナ禍による影響が一時的でないとすれば、企業とすれば企業のあり方をもう一度考えなければなりません。今までのやり方では通用しない可能性があるからです。このような話は頭ではわかっていたとしても、きっかけがないと中々着手できません。そこで良いきっかけになるのが計画作成です。事業計画作成においては自社や環境を細かく分析した上で、今後どのような方針にするかを決めます。その結果、コロナ禍の中でも耐えうるビジネスや事業計画を知恵を絞って考えることができます。このように自社の進路を示す羅針盤を再定義する非常に良い機会となるわけです。

数値計画により数カ月後を見通す

コロナ禍において事業計画作成が有利な理由は、数値計画を作ることも挙げられます。コロナ禍で売上が激減した企業は資金繰りが急速に悪化しています。今の状態が続くといつか資金がショートする、でもそれがいつになるかはわからないという企業も多いでしょう。しかし、数値計画を作ることにより、いつ資金ショートするか正確に予測することができ、それを避けるために余裕を持って金融機関に融資を依頼することができます。一方で、コロナ融資によって一息つけた企業も多いでしょう。このような企業にとっての関心事は、アフターコロナにおいて既存融資の返済に加え、コロナ融資を本当に返せるか、でしょう。返済額は返済条件により予め分かるので、数値計画を作れば返済額に足りるだけの返済原資を稼げるか否かがわかります。もし返済原資が足らなければどうすれば返済原資を増やすことができるか、または返済額を減らすよう金融機関に相談することはできるか、などの対応を取ることができます。

コロナ禍という極めて不透明な状況では事業計画を作っても意味がないのではないか、という意見もあります。一理あるようですが、それは逆です。確かに数値を正確に予測することは困難ですが、色々なパターンをシミュレーションすることはできますし、その場合に資金がどうなるかを予測することもできます。つまり、将来が読めないなら読めないなりにいくつかのシナリオを準備できるということです。

金融機関の協力を期待できる

コロナ融資は民間の金融機関は基本的にリスクを取っていません。なぜなら政府系の政策金融公庫か信用保証協会がリスクを取っているからです。コロナ融資は一段落したと言われており、今後は民間の金融機関のプロパー融資(民間の金融機関がリスクを取る融資)に頼るしかないと言われています。しかし、プロパー融資は業績の厳しい企業には難しくなります。そのような状況で金融機関から信頼を得るには相応の事業計画書が必要になってきます。金融機関は事業計画書を元に企業の資金繰りや返済原資が十分か判断するためです。特に、コロナ禍において金融機関はまず企業にキャッシュフローがプラスになれるかどうかを見極めようとしていますが、それを判断するのに最も役立つのは事業計画書です。事業計画書があれば金融機関が必ず融資してくれるわけではないですが、融資判断に大きく影響するのは事業計画書ですので、計画を作る意味は大いにあります。

補助金へ活かす

コロナ禍という非常事態に対して、国は多くの補助金を打ち出しました。例えば事業再構築補助金や持続化補助金の低感染リスク型ビジネス枠といったものです。これらの補助金は通常の補助金より内容が優遇されているため、可能なら是非取りに行きたいところです。いずれの申請にも事業計画書が必要となります。今のうちにしっかりとした事業計画書を作っておけば、補助金申請の際の事業計画書も質の良いものを労力をかけずに作ることができ、採択の可能性が高まります。補助金については、補助金申請〜A to Z〜も参考になるでしょう。

まとめ

・コロナ禍において事業計画書を作ることで、不安を払拭することができる。理由は、将来を見通し、危機に対し先手を打てるからである。

・事業計画書作成は、コロナ禍でも生き延びられるビジネスを考える絶好の機会である。

・数値計画を作ることで資金ショートのタイミングを予測したり、コロナ融資の返済額に対する返済原資の過不足を判断できる。

・事業計画書を作ることで、金融機関の協力を得られやすくなる

・一度作った事業計画書は、コロナ禍における各種補助金において大いに活用できる。

(3)現状分析〜世界を正しく見る〜

現状分析の目的~正しく判断するための材料を集める~

事業計画書は、基本的に将来どう行動するかという未来についてが内容のメインです。そして、その行動は利益につながるものでなければなりません。しかし、現実には必ずしもそのような行動ばかり取るとは限らず、無駄であったり効果が低い行動を取ってしまうこともあります。理由の一つは、現状を正しく認識していないためです。例えば、品質が自社の強みだと思い、アピールする計画にしたとして、ライバルは自社よりももっと品質が高ければその行動は効果が低くなります。つまり、誤った情報やあいまいな情報に基づいて意思決定をしてしまうと、結果導かれる行動も誤ったものになり、必然的に業績に結びつかないあるいは逆に悪化させかねないという事態になりかねないのです。そのため、事業計画は将来の行動を定めることではありますが、その大前提として現状を正しく分析し、理解する必要があります。

現状分析の流れ~定性・定量、内部・外部、SWOT~

現状分析は様々な切り口から実施します。まず、定性的な分析がメインの事業分析、定量的な分析である財務分析があります。事業分析は、自社以外も対象とする外部分析、自社を対象とする内部分析があります。そして、それらの分析のまとめとしてSWOT分析をし、将来の行動を決めるベースとします。現状分析において意識すべきポイントは、どこに宝が落ちているかわからないということです。つまり、一つ一つの分析情報は既に知っていることであったりありきたりなことであったりして意味がないように感じることもあります。しかし、どこに有用な情報があるかは事前に予想が難しいものです。有用な情報があれば、将来の行動を利益に結びつける上で大変有利になります。そのような情報の取りこぼしをしないためには一つ一つはつまならい各分析を丁寧にすることです。地道な作業が競争優位につながるというのは普遍的な原則です。

事業分析~生き残るだけの価値はあるか~

外部分析
マクロ環境分析

マクロ環境分析は、法規制・金利・人口統計・技術革新等といった企業に間接的に影響を与える外部要因のことです。これらは企業にとってコントロール不能になります。代表的な分析手法にはPEST分析があり、Politics(政治),Economics(経済),Social(社会),Technology(技術)の各視点から分析します。意思決定に与える影響は大きくないため、最低限の分析で十分でしょう。

業界分析

企業の競合や顧客についての分析をします。代表的な分析手法には5フォース分析、3C分析があります。

5フォース分析は、①競合との競争の激しさ、②参入障壁の高さ、③代替品・サービスの出現しやすさ、④買い手の交渉力、⑤売り手の交渉力という5つの視点で分析するものです。これらの情報から何かを導くというよりも、既に知っている情報を整理するという意味合いが強くなります。

3C分析は、市場・顧客(Customer)、競合他社(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から分析するものです。3C分析では、顧客にはどのようなニーズがあって、どのような視点で競合や自社を選んでいるかを分析します。将来の行動を決めるのに重要な情報になります。

内部分析

内部分析は事業自体を対象に分析します。代表的な手法にはVRIO分析、バリューチェーン分析があります。両者ともに自社の強みと弱みを把握する目的があります。

VRIO分析は、Value(経済価値),Rareness(希少性),Imitability(模倣可能性),Organization(組織)の区分ごとに把握し、自社の経営資源の競争優位性と不足している資源を把握する手法です。

バリューチェーン分析は、企業の活動を段階別に分け、各機能ごとに分析して改善を目指すものです。

財務分析~重要な指標と自社の現在地~

事業分析が定性的な分析が中心だったのに対し、財務分析は定量的な分析になります。

採算性分析

どの得意先や商品・サービスで儲けているのか、あるいは赤字になっているかを分析します。例えば利益率の高い得意先があったら理由を分析し、横展開できないかを考えるヒントが生まれることもあります。部門別の分析もありますが、大抵はもっと細かいレベルでの分析になります。この分析を基に意思決定に直結することが多く、非常に重要な分析です。多くの経営者の方はある程度の採算のイメージを持っていますが、それでも何かしら新しい気付きが得られることがほとんどです。

どの程度の粒度で分析をするかは費用対効果を考えて決めます。大雑把すぎても意思決定には役に立たず、細かすぎると手間や時間ばかりかかります。バランスを取りながら決めます。

資金繰り分析

資金繰り実績表を作ることにより、企業が獲得する資金と返済や投資などで流出する資金のバランスが取れているかを把握します。将来計画でも資金計画を作りますが、その基になります。

実質純資産

資産と負債を時価評価して算出する純資産額です。金融機関はこの額を基に企業を評価します。もしマイナスであれば一刻も早くプラスにすべきです。

正常収益力

企業が継続的に獲得できる利益を知るために、営業利益や経常利益の中から一時的なものや異常な項目を除いて算出します。

債務償還年数

企業が獲得する資金額と債務額のバランスを図る指標です。一般に、利払い後キャッシュフローで要償還債務を返済する年数が10年を超えると債務が過剰であると言われます。

SWOT分析~将来計画のベース~

事業分析、財務分析といった個別の分析結果を踏まえ、SWOT分析をします。SWOT分析は、Strength(強み),Weakness(弱み),Opportunity(機会),Threat(脅威)の各区分ごとに分析します。分析結果を基に今後の方向性を決めることになりますが、多くは強みを活かし、弱みは克服ないし最小化するような方針を選びます。

窮境原因の把握~根本的な原因に向き合う~

すべての企業に当てはまるわけではないですが、財務が大きく傷んでいる企業は大きな原因があることがほとんどです。それを窮境原因と言います。企業再生の現場ではこれを解消するかどうかを判断することになりますが、再生企業でなくても自社にそのような原因があるのであれば、最優先に除くべきです。でないと、また同じことを繰り返す可能性があります。

まとめ

・誤った情報に基づいて経営判断すると、間違った判断をする。そのため正確な現状分析が必要。

・分析には事業分析と財務分析がある。事業分析には外部分析(PEST分析、5フォース分析、3C分析)内部分析(VRIO分析、バリューチェーン分析)がある。財務分析には採算性分析、資金繰り分析、実質純資産、正常収益力、債務償還年数がある。

・分析の仕上げとしてSWOT分析をする。

・窮境原因があれば除く方法を考える。

(4)将来を考える〜行動と数値〜

コンセプト〜言語化し、自覚を強める〜

現状分析が終わると、その分析結果を基に将来どうするかを決めていきます。事業「計画」とは将来のことなので、この部分が事業計画作成の肝となります。具体的には、将来の行動と数値の2つを決めていきます。ここで大切なのが、コンセプトを決め、それに基づき将来の行動計画や数値を決めるという流れです。コンセプトとは、全体を貫く基本的な考え方のことです。例としては、「素材・加工方法とも最高で無添加である本物の商品を地元高齢者に届ける」などです。弊所の場合は「経営を深め、相談できる場を作る」です。コンセプトは事業計画作成に必須ではないですが、コンセプトがあることにより、個々の行動がバラバラになるのを防ぎ、統一感を持たせることができます。統一感がなぜ大事かというと、従業員も判断・行動しやすくなるととともに、顧客にも一貫したイメージが伝わりやすく、支持を得やすいためです。また、経営者自身も判断のブレが少なくなります。コンセプトを熟慮して言語化することにより、自覚が強まるからです。コンセプトは現状分析の結果を基にしますが、一方で自社の経営理念など自社固有の事情も考慮して決めるべきです。その方が納得感が高いだけでなく、他社との違いを打ち出しやすいからです。以上のような大きなメリットがあるため、コンセプトを作ることは非常に大切です。

行動計画〜実現可能かつ効果が高いものを〜

コンセプトが固まったら、それに基づき行動計画を作ります。行動計画とは、実行すべき行動をリストアップし、それぞれの行動ごとに実行責任者とスケジュールを立てたものです。アクションプランと言われることもあります。ここでのポイントは、中小企業は人的・金銭的リソースが十分ではないことが多いため、たくさんリストアップしたとしてもその中で優先順位を付けることです。多くの施策を同時に全て実現しようとしても、全て中途半端になってしまうという失敗がよく起こります。そのならないために、行動計画は実現可能なものに絞るべきです。ただ実現可能であっても効果が薄ければ意味がないので、実施して効果が大きいものでなければなりません。この効果の大きさを図るためにも、各施策の経済的影響(売上✕千円増加、費用✕千円削減など)を見積もることが重要です。経済的影響を見積もることにより、将来においてその施策がうまくいったのか否かを判断する材料にもなります。

数値計画〜願望ではなく、コミットメントである〜

数値計画で大事なのは、願望ではなく達成が実現できそうなレベルにすることです。ここは誤解されていることが多いのですが、計画は目標ではありません。計画を作り慣れていない経営者の方は、特に売上を右肩上がりの計画にすることが多いです。これは目標値として設定しているからです。目標は、そうなればいいなという願望が多分に含まれています。その分難易度は上がります。しかし、計画で数値を作ることの意味は、将来のシミュレーションをすることにあります。つまり、計画で想定した売上水準ではこの程度の利益を稼げ、その利益だと現状の返済計画を達成でき、現預金水準もある程度は維持できる、など色々な数値計画が全て繋がっており、それらが一定の仮定だとどうなるかを事前に予測することが目的です。そのため、目標としての水準で計画を作成した結果、例えば売上実績が計画水準に届かないと、結果として利益も計画より下振れ、資金水準も下振れます。現実の経済活動では資金はなんとか回さなければならないので、金融機関や仕入先、または税金や社会保険などへの返済・支払いを遅らせることになります。そうすると、返済計画や貸借対照表も計画と違ってきます。つまり、この状態では計画を作る意味がほぼなくなります。このように、数値計画は全て繋がっているので、どれかの見通しが甘ければ他の数値計画にも影響を与えます。このような理由があるため、計画数値は目標値ではなく実現可能な水準とする必要があります。

売上計画

一般の数値計画では売上は損益計算書計画に含まれ、独立して作らないことも多いですが、できれば損益計算書と別に作るべきです。理由は、費用改善や採算性の改善だけでは業績回復に足りない場合もあり、そのような場合には売上を増加させる必要がある。その場合に雑な売上計画だとどう増やすかイメージできないためです。そのため、単価×数量など業種によって計算式は異なりますが、いずれにせよ売上を各項目に分解し、具体的にイメージできるレベルまで落とし込むことが大切です。

損益計算書(PL)

PLは各科目ごとに計算します。削減可能な項目を探したり、逆に増える項目があればそれも反映します。PL作成を通じて、費用はどのような項目から構成されているか自然と理解していきます。必要な利益を達成するために費用削減で達成できなければ、いくら売上増加が必要か、売上計画と行ったり来たりすることになります。営業利益及び償却前営業利益がどの程度の水準になるか把握することが大切です。特に、返済計画表でわかる返済額を賄えるだけの収益を生み出しているかは必ず把握しておきましょう

参考:経営者の必修科目(第1回)〜損益計算書の見方と注目すべき指標〜

貸借対照表(BS)

BSでは各科目とも金額を据え置くことが多いですが、役員貸付金や関係会社貸付金など解消すべき項目はいずれゼロを目指します。PL同様、BS作成を通じて各科目の構成をざっくり理解します。債務超過の場合は、資産超過になるかが大切です

参考:経営者の必修科目(第2回)〜貸借対照表の見方と注目すべき科目〜

キャッシュフロー計算書(CF)

PLとBSを作成すれば、CFは差額で自動的に算出できます(間接法CFの場合)。そのため、PLやBSのように何かを決めるということは有りません。ここで把握すべきは、本業からいくら稼いでいるか(営業CF)、そのうち投資にいくら回せるか(投資CF)、残りで借入を返済できるか(営業CFー投資CF=FCF>財務CF)、その結果現預金はいくら残るかを理解することです。なお、PL,BS,CFを併せて財務三表と言い、企業の財務状態を表す基本的な資料になります。

カテゴリ別損益

カテゴリ別分析とは、得意先別や商品別などの各カテゴリ別に損益を分析したもので、現状分析における採算性分析で作ったものの計画版になります。これも売上計画と同様、一般の計画では必須ではありませんが、自社の収益力の核となる情報なので可能な限り作るべきです。例えば利益率の高い得意先への販売量を増やしたり、逆ざやとなっている得意先との取引をやめるなど行動計画がダイレクトに反映します。

参考:経営改善の手引き(第2回)〜費用を減らす:採算による取捨選択〜

返済計画

現状の返済計画表から作ります。ここでの目的は、月額の返済額やいつから増減があるかを大まかに理解することです。そして返済額とPLで把握した償却前営業利益のバランスが取れているかを把握します。もし返済額>償却前営業利益であればいずれ資金が不足するので、リスケや新規融資の検討も視野に入ります。また、全体の借入の中で信用保証協会が保証している額は金融機関の関与姿勢に大きく影響するので、できれば信用保証協会による保証額も把握したいです。

設備投資計画

新規の設備だけでなく、更新投資など必要な投資を網羅します。緊急に必要となる修繕はPLの修繕費に折り込みます。もし設備取得に新規融資が必要なら、金融機関も設備投資計画があることで理解しやすくなります。また、補助金は(特に金額の大きい補助金ほど)設備投資を補助するものが多いのですが、補助金を計画的に利用するのにも役立ちます。大型の補助金は毎年公募されることが多く(ただし各公募期間は短い)、設備投資計画があれば具体的にどの補助金を利用すればよいか判断しやすいためです。

税金計画

税金計画は、法人税等の計画になります。繰越欠損金があれば均等割しか発生しない一方、多額の利益が出れば利益に対し2,3割の税金が発生します。資金繰りに直接大きな影響を与えるので、利益が増える見込みが大きいならどの程度法人税が増えるか把握するのが必須です。

まとめ

・現状分析を基に、将来の計画を作る

・計画の実現可能性を高めるためにコンセプトを決め、行動計画や数値計画に反映する。

・行動計画は実現可能かつ効果の高い施策に絞る。経済的影響も見積もる。

・数値計画は願望としての目標値ではなく、実現可能な水準にする。売上計画、PL、BS、CF、カテゴリ別損益、返済計画、設備投資計画、税金計画がある。

(5)モニタリング〜事業計画を確実に履行する~

目的~作るだけにしない、原因を把握する~

事業計画書は作成して終わりではなく、そこからがスタートという面があります。なぜなら、多くの会社が事業計画書を作るまでにパワーを使い果たして、作りっぱなしのケースが非常に多いからです。事業計画書はあくまで将来の行動を変えるためのものです。そのため、計画を作るだけでなく確実に実行する仕組みが必要です。それがモニタリングです。また、将来は常に予測不能な事態が発生し、現実には計画通りに行かないこともよくあります。そういう場合は計画とズレが生まれた原因を把握するとともに、必要に応じ計画を軌道修正することになります。この判断のためにもモニタリングが必要になります。

内容~進捗確認と差異分析~

モニタリングの内容には、まず行動計画(アクションプラン)の進捗を確認することが挙げられます。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と言われるように、計画を作る時は熱心でも、作っただけで満足してしまい、せっかく計画で決めた改善行動を実施に移さないケースが非常に多くあります。それでは多くの時間や労力をかけて作った意味がありません。このような事態を避けるためには、進捗を定期的に確認する機会を設けるとともに、きちんと実行するよう自分にプレッシャーをかけることです。

また、計画値と実績値を比較し、差異分析をします。差異が大きければ原因を把握し、自社の行動を変える必要があるのであればその検討もします。差異分析は全体感を持って行う必要があります。つまり、売上が計画より下振れたとして、その結果利益も下振れますが、場合によってはいずれ借入金の返済を返せなくなる可能性があるかもしれません。もしそうであれば、早めに金融機関に新規融資の可能性を相談するべきかもしれません。このように、差異が大きい科目だけでなく、それが他に与える影響も含めて分析をすべきです。

頻度~多くは3ヶ月か半年毎~

必要に応じて頻度は変わります。業績が順調であれば1年に1回の場合もありますし、逆に厳しければ毎月モニタリングを実施する場合もあります。一般的には3ヶ月に1回ないし半年に1回が多いです。

期間~事業計画期間中ずっと~

事業計画の期間中はモニタリングを続けることになります。例えば事業計画期間が3年なら、3年の間モニタリングを継続します。

事業計画書の修正~大きな変化があった場合のみ~

 事業計画書作成には大きな労力と時間を使いますし、そもそも想定外の事は起きるのが当たり前です。そのため、計画の修正は頻繁にすべき性質ではありません。しかし、それでも大きな変化が生まれたら修正が必要になる場合があります。例えば、事業計画の下振れが大きく、資金繰りが厳しくなって返済を一時停止(リスケ)する場合は返済計画が変わることになります。このような場合はPLやBSなどの見直しも併せて行われます。また、大きな設備投資をして生産量や集客が大きく変わったなどの場合もPLへの影響が大きいので、事業計画を修正することがあります。

まとめ

・モニタリングの目的は、事業計画を確実に履行することと、計画とのズレの原因を把握し行動を修正すること

・モニタリングで行う内容は進捗確認と差異分析。

・事業計画書修正は頻繁にせず、大きな変化があった場合のみ

(6)べからず集〜失敗の原因〜

当事者意識がない

事業計画が失敗する一番の原因は経営者の方に当事者意識がないことです。事業計画を成功させる上で何より最重要なのは、経営者の方が事業計画書の内容に腹落ちすることです。事業計画書を作る機会として実際に多いのは、リスケなど金融支援をする際に金融機関の求めに応じての場合ですが、この場合経営者としては計画を作る必要性を十分理解していないケースがあります。また、事業計画書作成だけでなく財務・事業調査(デューデリジェンス)も併せて実施され、多額の費用がかかることも納得が行かない理由の一つでしょう。そのような状況で作られた計画では、経営者の中身は変わりません。結果、行動も変わらず、業績も変わりません。そのような状況は皆が不幸です。そうならないためには、まず経営者の方が事業計画書を作る必要性を誰よりも強く感じ、作った事業計画書の中身について完全に腹落ちすることが肝になってきます。言い換えれば、経営者の方が誰よりも当事者意識を持つ必要がある。ということです。事業計画書を作るのは、あくまで会社自身のためです。会社のトップである経営者が率先して計画の中身を実行に移すべき立場であるということを理解しましょう。

事業計画書を作って終わり

事業計画書を作るだけでも大きな労力と時間がかかります。この結果、事業計画書を作るのにパワーを使い果たし、その事業計画を活かしていないケースも多いです。当然ながら事業計画はあくまで計画であって、実行しないと何の意味もありません。また、事業計画で決めた改善行動を実行に移しても、それで全ての問題が解決するわけではありません。事業計画通りの効果を挙げる施策もあれば、期待ほどでない施策もあります。これらはやってみないとわからない面があります。また、事業計画作成時点では予想できなかった事象が起きることもあります。例えばコロナ禍はを予測できた人はだれもいないでしょう。つまり、杓子定規に事業計画で決めたことを実行するだけでなく、常に試行錯誤を繰り返す心構えでいなければならないということです。

楽観的すぎる事業計画

事業計画書を作っている最中は、特に事業計画書作成に慣れていないと楽観的になる傾向があります。具体的には、売上計画をこのくらいは増えるだろう(増えてほしい)と甘めの水準にしてしまったり、行動計画にあれもこれもやりたいと思いつく限り盛り込むケースです。実現不能な数値目標を設定してしまうと計画未達が当たり前になりモチベーションが下がります。また、行動計画の項でも書きましたが、打ち出すべき施策は実行可能なものにすべきです。あまりにも多くの施策を考えると全て実行する前に心が折れますし、実現不能なレベルの施策では有名無実なものになってしまいます。事業計画書を作る段階で実行への具体的なイメージをし、確実に履行できるようにしましょう。

そもそも強みがない

資本主義は基本的に他社との競争なので、競争に勝たなければなりません。勝つための定石は、自社の強みを活かし、優位に立つことです。そのため、計画に置いてもSWOT分析はじめ各分析に置いて強みを把握し、これを軸に行動計画を作ることが多いです。この点、多くの中小企業は自社の強み・良さに気づいていないことが非常に多く、ヒアリングをする過程でどんどん出てくることが多いです。しかしながら、やはり稀に強みらしい強みがない会社も存在します。そのような会社が行動計画を作ろうとしても、具体的で効果の高い施策は中々難しいでしょう。そのような場合は無理に計画を作るのではなく、まず自社の強みを作ろうとするところから始めた方が良い場合もあります。このように、計画を作ってもしっくりこない場合はその原因があるはずなので、その手前から考えることも大切です。

細部に時間と労力をかけすぎる

現状分析の項で紹介した手法は中小企業においてはなじみのないものです。その上、事業・財務、内部・外部など様々な視点から分析するので、中には非常に負担に感じる経営者の方もおられるでしょう。しかし、自社を大きく改善させるための宝の情報はどこに転がっているかわからないものです。そのため、基本的な考え方としては大変だったとてしもてある程度視野を広げて分析すべきです。しかしながら、全ての分析が同じ価値を持つわけではないので、自社にとって有益な結果が得られない可能性が高ければ必要最小限にとどめるべきです。そうしないと肝心な行動計画に辿り着く前に心が折れてしまいますし、細部と時間に労力をかけすぎると費用対効果が悪く、事業計画なんて作らなければ良かったとなりかねないからです。つまり分析にメリハリをつけることが大切ということです。

専門家に丸投げ

実務で事業計画書を作る機会が多いのは、金融機関が金融支援(リスケなど)をするのに必要なため求める場合で、その際に事業計画書作成を支援する専門家を紹介されることが多いです。そのような場合、専門家の主導で事業計画書作成が進むわけですが、稀に完全に専門家に丸投げしてしまうケースがあります。これは経営者の方も専門家も改善の余地があります。経営者としては自社の事業計画なのだからもっと関心を持つべきですし、専門家側も経営者の意向をよく引き出して、経営者に確認をとりながら一緒に事業計画を作るという意識が必要になってきます。多くの場合、事業計画書作成の専門家は事業計画書を作ったらお役御免でいなくなります。このようなケースでは、事業計画と実績が乖離した際、専門家が勝手に作った事業計画だから自分は知らないとという声を聞くことが多いです。このようなケースにならないよう、専門家に丸投げしないことが大切です。

まとめ

・当事者意識を持たざるべからず

・事業計画書を作って終わりにすべからず

・強みがないのに計画を作るべからず

・細部に過大な時間と労力をかけるべからず

・専門家に丸投げすべからず

(7)専門家に依頼すべきか否か〜専門家を利用するメリット〜

専門家を利用すると大きなメリットがありますが、必ずしも全ての企業で必要ではありません。具体的には下記のメリットがありますが、これらを自社でできる、又は求めないのであれば専門家を無理に使う必要はなく、自社で事業計画書を作成すれば良いでしょう。逆にもし不安なのであれば専門家の利用をお勧めします。現実的には、中堅規模以上の会社か、小規模の会社では簡易な事業計画書であれば顧問税理士の協力を得られれば作成できる可能性もあるため自力作成に挑戦しても良いでしょう。ただし、質の高い事業計画書を作る上ではやはり専門家に依頼するのが良いです。認定支援機関(認定支援機関を利用しよう)であれば計画作成の経験がある可能性が高いです。身近な顧問税理士、中小企業診断士の方に尋ねて見るのも良いでしょう。

弊所でも、メインとする顧問契約に簡易の事業計画書策定支援が含まれています。よろしければご検討ください。→あらたま会計事務所の顧問契約を検討する

数値計画の精度が高い

数値計画には財務三表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)が含まれます。これらの三表は互いに連動しており、その関係を正確に反映するには会計の知識が必要になります。特に、貸借対照表における資産・負債の増減がキャッシュフロー計算書にどのように反映するかはそれなりに高度な知識が必要です。また、法人税は損益にもキャッシュフローにも大きく影響を与えるので正確に算出する必要があります。補助金をもらう場合も圧縮記帳という方法を取るか否かで法人税額が変わってきます。つまり、正確な数値計画を作るには会計・税務の専門知識が必要になるということです。

金融機関の知識がある

作成した事業計画書を金融機関に提出するケースも多いでしょう。金融機関からの格付けが良くない場合、一定の要件を満たす計画にすることで格付けが良くなる可能性があります。「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」、「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」と言われるものですが、×年以内に債務超過解消、×年以内に債務償還年数10年以内、などの要件があります。金融機関の評価を意識した事業計画書を作る場合はこれらの要件を満たす計画にすることになります。

客観的な視点を得られる

自社のことはわかっているようで、実は正確にわかっていない。これは数百社を見た経験から痛感していることです。特に多いケースでは、強みだと思っていたことが同業他社にも同じことが言えて強みになっていなかった、逆に自分では当たり前と思っていたことが実は大きな強みだったという場合が挙げられます。自社を正確に見られない理由には、自社を見るにはバイアスが入ってしまう、これまで自社を客観的に見た経験がないなど様々なものがあります。いずれにせよ、自分では気づくことが難しい点は多く、それらを引き出すにはヒアリングのノウハウが必要です。

言語化能力が高い

専門家を利用するメリットには言語化する能力も挙げられます。自社の強みを分析する時やコンセプトを作りたい場合、なんとなくのイメージは頭の中にあってもそれをうまく言葉にできないということが実務においては多くあります専門家は事業計画書作成や調査報告書で第三者に言葉で伝えるということに慣れているので、経営者の方がうまく表現できないものをわかりやすい言葉で表現することが上手です。言語化することによって経営者の方もより強く自覚できますし、社内での周知もしやすくなりますし、外部の金融機関に理解してもらうこともできるようになります。

まとめ

専門家を利用するメリットは、

・会計と税務の専門知識を数値計画に活かせる

・金融機関の格付けを高める可能性のある事業計画書を作れる

・自分では気づきにくい点に気づくことができる

・なんとなくのイメージを言葉にしてくれる

2.事業計画書記載事項

前項までで事業計画書に盛り込む事項を書きましたが、最後に仕上げとして事業計画書に記載すべき事項を網羅します。正確には、事業計画にも色々あってそれぞれの事業計画ごとに記載事項に差があります。そのため標準的に盛り込むべき事項について述べていきます。なお、各事業計画の記載事項については様々な計画の記載事項をご覧ください。分量としては早期経営改善計画と経営改善計画の間くらいです。ご参考までにサンプルを下記に載せておきます。

計画本文サンプル

数値計画サンプル

それぞれの項目は簡単な記載になっておりますが、自社で作成する上では内容が大事なのでこの程度で十分役に立ちます。分量が多すぎても作成者の自己満足になるケースは非常に多いので、メリハリに気をつけましょう。

(1)事業計画書本文

概要

企業の概要は、自社のためというよりは外部、特に金融機関に対して自社の理解をスムーズにするために記載されるものです。内容としては、沿革、業種・事業内容、グループ会社、取引金融機関、株主構成、役員構成、財務ハイライトです。

現状分析

経営改善計画や事業再生計画では、事業計画書作成のみならず財務調査や事業調査も併せて行われます。そのため、調査結果である現状分析は各調査報告書に記載されるため、事業計画書本文には記載されないことがあります。しかしながら、全ての計画作成において財務調査・事業調査を実施するわけではなく、また関係者も調査報告書を必ず読むとは限らないため、事業計画書本文に現状分析を記載した方がより深く理解できます

外部分析

「現状分析:世界を正しく見る」の項をご参照ください。

内部分析

「現状分析:世界を正しく見る」の項をご参照ください。

財務分析

「現状分析:世界を正しく見る」の項をご参照ください。

SWOT分析

「現状分析:世界を正しく見る」の項をご参照ください。

事業計画

課題

現状分析の結果として、自社の課題を記載します。以下に記載する内容はこの課題に取り組むものになります。

コンセプト

「将来を考える:行動と数値」の項をご参照ください。

行動計画

「将来を考える:行動と数値」の項をご参照ください。

モニタリング計画

「モニタリング:計画を確実に履行する」の項をご参照ください。

(2)事業計画書別紙

数値計画(別紙)

数値計画は事業計画書本文ではなく別紙に記載することが多いです。数値計画の前提や要約は本文に盛り込むこともあります。

内容については、「将来を考える:行動と数値」の項をご参照ください。